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瞬間、狂い咲いた結晶華に反応が追いついたのはその場では殺塵鬼のみであった。
咄嗟にプラズマを纏い致命は避けたが、一瞬肌にまとわりついただけで、皮膚を壊死させドリスの左足は崩れ、軽症である右足も肉がずる向けて脛の超合金骨格が見えるほどだ。
それでもまだ人造惑星の肉体であることがドリスの命を繋げていた。
肉体を急激に壊死させるほどの極端な温度差は生身の人間であれば即座に意識を失っていてもおかしくないものだ。
急速な回復によりすぐに傷は塞がるとはいえ、微動だにせずにその場を氷紋で塗り替えていく氷河姫の姿にドリスは息を飲んだ。

「屑星風情がよく吠えたものだ。生まれ変わっても尚卑しい考えが抜けきらない屑に相応しい」

口調はまだ冷静を保っているとはいえ、分水嶺はとうに越えた。
今更ドリスが泣き叫んで命乞いしたところで、彼女は間違いなくドリスを破壊する。
その確信にドリスは指の関節が白くなるほど手を握りしめ、身に纏うプラズマの温度を一気に上昇させた。

「ええ、私は屑星。惑星になんてなれないし、恒星にはとても届かない。他の星に引き寄せられてしか存在できない脆弱な星よ」
「ならばそれらしく分を弁えていれば、もう少しは長生きできたでしょうに」
「忘れたの?──私たち、もうとっくに終わってるのよ」

飛来する氷を避けながらドリスは氷河姫の言葉に返した。
氷塊は到底避けきれるものではなく、また避けたところで着弾点から枝葉のように伸びる氷がドリスの体を切り裂いた。
幸いと言えるのは、どういうつもりか殺塵鬼が氷河姫の背後に佇んだままこちらに手を出そうとはしないことか。
彼なりの筋なのか、氷河姫1人で事足りるという侮りなのかは分からないにせよ、ドリスにとっては好都合であることに変わりない。

しかし、好都合なのは所詮それ1点。
付属性に特化しすぎた針のようなドリスの星は干渉性が低く、空間そのものを凍てつかせられれば抵抗の術がない。
迫る樹氷を次々にプラズマで爆散させようと、数の多さで追いつけない。
腕が、足が、顔が凍らされては、砕いての繰り返しで流血が止まらない。
栗色の髪は赤く濡れて乱れ、スカートとブラウスは醜い斑模様に染めあげられていく。

「くっ!」
「どうした、仮にも大和の技術をその見に受けて置きながらその程度か」

高らかに、己のスペックの高さを誇るように氷河姫は笑った。
顔立ちの美しさが際立つように、酷く冷たい笑顔を向けられて、逆にドリスはおかしくなってきた。
憐れなるかな蒙昧な鉄姫トゥーランドットよ。

「ふふ、ふふふ……うれしい?カグツチに貰った体が強くって、私や他の人が勝てないくらい特別性で」

実際、言葉を吐き出していることさえ苦痛だ。
冷気を吸い込むことで喉の粘膜が一気にめくれあがる。
星辰奏者であったとしても、よほど上手く立ち回らねば彼女の空間は呼吸さえ許されぬ死の園だ。
だからこそ、ドリスは氷で散々肉を削がれた足で一気にウラヌス本人へと突進をかけた。

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