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ウラヌス-No.ζの素体となった女がどれほど特別な存在だとか、優れた血統であるとかをドリスは知らない。
興味が無いのだ。
ドリスにあるのは恋だけだから、他のものなど目に写っても通り過ぎてしまう。
世界はドリスにはあまりに広過ぎる。

だから、去っていく2つの凶星のことも、手足を失ったことも、このままでいればこれ以上の苦痛など知らずに死ぬことも、ドリスには関係の無いことだった。

「あぁああぁあ────ッ!」

気が触れたかのように甲高い叫びと共に、ドリスは再び肉体へとプラズマを纏う。
もはや動けぬ体で氷を砕くにはこうするしか無かった。
全身のあらゆる神経が悲鳴を上げ、過剰稼働に耐えきれない内臓の一部が潰れて、吐血と共に口から溢れた。
けれど、今のドリスにすればそれはどうでもいい、取るに足りない出来事だ。
手足が無くても、まだ生きてるなら動けるのだから。
そして、恋しかないドリスは地面に転がり落ち、顔面を打ち付けながらも顔を上げた。
左顔面が砕けて、片目が零れ落ちたが目は見えている。
だから、狙いだけは逸れなかった。
進もうとする魔星たちへ、自分の弟妹たちへプラズマを射出する。
しかし、それもなんと弱いことか。
蝋燭の火にも劣る温度はもはや石畳を溶かすことすらなく、ただ殺塵鬼の黒い霧に飲み込まれるようにして消えた。

所詮、この程度なのだ。
屑星の足掻きなどこの程度。
だから、魔星たちは先へ進んでしまう。
手足のない彼女にはもはや足止めすらできない。

「くっぅ……ぐっ」

ならば、そう、止められないならどうする。
どうすればいい、ドリス。

結論はシンプルだ。

「はっ、ぁ……が、ぎっ……ぁっ」

石畳の瓦礫に辛うじて残った右腕の肘をかけて、時には街灯の残骸に噛み付いて顎の力で、もはや立ち上がれない体を引きずり進む。
進むために方法がそれしかないから、全身をくねらせて、芋虫の様で進む。
目的はただ一つ、逃げるためなどではない。

「伝え、なくちゃ……」

この混乱で指揮系統が乱れている可能性が大いにある。
以前に英雄が語っていた近衛白羊の名指揮官とやらでも、この混乱の最中どれだけ人を動かせるのかは分からない。
だからこそ、誰でもいい。
軍人に伝えることさえできれば

「ヴァルゼライド、大佐の……役に立てるから……!」

戦いに敗れ、足止めさえ全うできなかった屑の最後の恋心が体を動かした。
潰れた目はいつの間にか眼窩から落ちていたが、気にする必要などない。
今更欠けたパーツの一つ二つでどうこういうつもりはなかった。
ただ、もしも、もしも叶うならば直接伝えることができたなら、と願って、ドリスは顔を上げた。

「奴らはどこにいる」

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