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ドリスにとっては毛髪を送り付けることも、恋文を送り付けることも大差がない。
何故ならドリスにとって重要なのはあくまで自分がクリストファー・ヴァルゼライドを「愛している」という事実であり、クリストファー・ヴァルゼライドに愛される、ましてやこの愛を受け入れられるという健全で双方向的な愛の形など微塵も考えていないのだ。
どこまでも独り善がり、自分の「愛」を押し付けるだけの一方通行。

「あの、大佐はこの後お時間はありますか?よければコーヒーを」
「執務がある」

コーヒーの入った魔法瓶を取り出そうとする最中に、ドリスの言葉を遮ってヴァルゼライドが断言する。
ドリスも理解はしている。実際問題としてヴァルゼライドは忙しい。
だからドリスも落胆など特にせず、普段のとおりの笑みを浮かべながら鞄に魔法瓶を戻した。

「報告が済んだならば帰れ。表向きとはいえ民間人が立ち入っていることを知られるわけにはいかない」
「分かっています。ただ、もう少し……大佐と同じ空間にいたいな、なんて……」

さも健気に恋をしている乙女のような言葉を口にするドリスにヴァルゼライドは眉間に更に深い皺を刻んだ。
誰かしら、特定個人を愛するということを英雄は行わない。
だが、確実にドリスの「愛」とやらを肯定する事は愛情という陽の気持ちを冒涜するものでしかない、と嫌悪と侮蔑を持ちながらヴァルゼライドは想定していた。
実際、彼女の愛にヴァルゼライドの反応は含まれていない。今とて、共にいたいと口にはしたが、拒否されればあっさり背中をむけて歩き出した。
旧日本軍の遺跡でさえあるセントラル深奥に靴音を響かせていたが、不意にドリスは振り返りヴァルゼライドへと視線を向けた。

「そういえば、月女神は目覚めましたか?」
「……いいや」

その返答を聞くと、さも嬉しそうに笑ってから、今度こそドリスは部屋を後にした。


──愛とは何か/END

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