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セントラルを抜けて通りへと出ると、真上には太陽と第二太陽が輝いていた。
通りを行く人の顔はどれも前を向いていて、ここしばらく続いた戦勝のニュースに浮かれているというのがありありと伝わってきた。

自分の記憶にある限り──いや、より正確には素体の記憶する限りでは、数年前にはもう少しこの国でさえ通りを行く人の顔は暗かった気がする。
帝国アドラーが軍事国としての優越を他国に有していたとはいっても、技術は常に進化していく。
徐々にではあるが他国での技術が追いつき、戦線は膠着を見せ始めていた。
それを覆したのが英雄ヴァルゼライドの存在だった。
膠着した東部戦線での活躍は自分のような一般庶民にまで聞こえ、さらには始まりの星辰奏者として技術革新にまで名を残した。

そこまで思い出して、ふと、ドリスは考えを停止した。
自分にまで知れ渡るほどの英雄ヴァルゼライドを、今の肉体を得る前の私は愛していたのだろうか?
思い出せるはずもない記憶の隙間に違和感を覚えて、歩む足取りが少し遅くなる。
けれど、そんな考えもすぐにドリスの頭からは消え去った。

ドリスの素体となった肉体が死んだ時に頭部を損傷していたため、記憶の欠落があるのだとは技術者たちからも聞かされていたことだった。
他の素体たちにしても、生前そのままの外見という訳では無いらしく、自分の姉妹型にあたる月女神にしても生前はもう少し大人の肉体だったという。
ならば、幾らか欠け落ちた記憶があるということも気にするほどの事でもなかった。
何より、過去の自分が他の誰かを愛していたにせよ、今はヴァルゼライドというただ1人を愛していることの方がドリスには重要だった。

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