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自分の勤める雑貨屋へと戻ると早速、ドリスはカーテンを開けた。
シフト通りの時間に到着しているが、そもそもこの店は実質ドリス1人しか働いてはいない。
オーナーは本店にかかりきり、他のアルバイトにしても面接にまともに来なかったり、3日で辞めたり、要は慢性的に人手不足なのだ。
かといって、ドリスに不満はなかった。
元々、友人が多いわけでもなければ社交的な方でもなく、単に仕事として商品を取り扱うことや、説明するということがほんの少し得意なだけのドリスにすれば、今の職場環境こそ最高だった。

ハタキをかけてから、雑巾でしっかりとカウンターやテーブルを拭いて商品を陳列する。
今年流行の商国産のアクセサリーだ。
明るい彩りに華奢なデザインがアドラーの質実剛健な風潮では珍しく、若い女の子たちに流行ったのだ。
店内のミントグリーンのカーペットに箒をかけおわるとちょうど開店時刻だった。

店の前には馴染みの客──なのだが、ドリスはこの客のこともろくに覚えいない。
よく来てくれる常連である、ということや名前くらいは覚えているのだが何を買ってくれた、とか何を好いているなどというのはさっぱり覚えられない。
興味がないからだ。
それに、覚えていないからと苦労したこともなかった。

「いらっしゃいませ」

にこやかに頭を下げて扉を開くと、朗らかな笑顔を向けて客が店内へと入ってくる。
決して広くはないだけに人がいると狭く感じる店内だが、彼女らは不満を感じているようにも見えない。
だから、ドリスは普段通りにただにこやかに応対して、店員らしく振舞って、客を見送った。

これがドリスの表の顔。
雑貨屋店員に過ぎないただの少女としての顔だ。


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