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ドリスは生前から自分の環境に満足していた。
もっと裕福になりたい、もっと名誉が欲しいといった欲求とは縁遠かった。
たった1つの執着を除いては。

今のドリスは生前以上に愛に執着していた。
それは規格として当たり前の仕様であり、人造惑星としては失敗作であったにせよ、製造段階で焼き付けられた強い感情であった。
だからこそ、ドリスにとって自分が失敗作であったことは深い失望を抱く事態だった。

月女神に向けられるヴァルゼライドの関心は自分よりも遥かに高い。
カグツチとの聖戦に向ける期待は言わずもがな。
ならば、なぜ自分はこんなに役立たずとして生まれてしまったのだろうかと、ドリスは自分の運命を理解して嘆いた。
そして、嘆いてから顔を上げて、なるべく「前を見ること」にした。

前にはいつだって英雄がいる。
愛するヴァルゼライドがいるならば、ほんの少し自分が運命から外れた場所に置かれたくらい大した問題でもないだろう、そう感じていたし、実際今ではそれが当たり前だった。

だから、ヴァルゼライドへの愛情表現は手抜かりがない。
髪の毛を送り付けることなど序の口。生まれてすぐに彼の飲食物には血液を混入させたし、彼が使った食器をセントラルへの報告時に失敬したこともある。さらに言うならば、それこそ文字通り骨を折る羽目にはなったけれど、彼の下着に手を出したこともある。
どれもこれも、愛する彼が欲しくて堪らなくて、体が望むからだ。

弟型である錬金術師からは心底理解出来ないと思われているのが態度から透けて見えるが、それでも別段気にするつもりはなかった。
ドリスにとって最重要なのは、あくまでもクリストファー・ヴァルゼライドという一個人に過ぎないのだから。


だから、セントラルへの報告はこの上もなく至高の時間だった。
愛しい彼と会える時間を優先してシフトは用意した。
幸いかなドリスの勤める雑貨屋はさして賑わいがない。
だから、早朝に開ける必要もなければ夕方も早めに閉めることが許されている。
セントラルへの報告のため早めに店を閉めて、ほんの少しだけお洒落な服に着替えて、ざんばらになってしまった髪を櫛で直してから、ドリスは今日も意気揚々とセントラルへ向かった。

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