『………』
「………」
どくどくと忙しなく働く心臓の音が煩い。
私はごくりと生唾を飲み込みながらゆっくりと爆豪さんの言葉を待った。
チンッ
私達の住む4階に着いて到着音が再び鳴った。
それでも爆豪さんは何も喋らない。
私はすたすたと私を置いていく爆豪さんの背中を追いかけるようにしてエレベーターから降りた。
『爆豪さん、403の轟さんとお知り合いなんですよね…?』
「………」
"アイツには会いたくねぇ。"
忘れない。この間爆豪さんが言った言葉。
きっと彼は轟さんと知り合いで、彼のことを何か知っているんだ。
…頼れるのはこの人しかいない。私は直感的にそう思った。
『私、轟さんとは部屋が隣で…よくご飯を作ってあげていたんです。轟さん、お料理できないみたいで…。』
爆豪さんに以前の日々の事を懐かしむように語る。
ほんの少し前の事なのにひどく懐かしく感じてしまうのはどうしてだろう。
『ー…それで、ある時私彼を怒らせてしまって…』
「アイツが?」
『!…や、やっぱり!』
爆豪さんが初めて反応してくれた。
ポケットに手を入れながら私の方へ振り返り、形の良い眉を少しだけ寄せる。
私はそれを聞いた瞬間嬉しくなってしまって。
『轟さんのこと知ってるんですね!』
「………いや、なんも知らねぇ。」
『…っ! なんで教えてくれないんですか!』
もどかしさと悔しさで声がわななく。
「何か知ってるんでしょう?」と聞いてみても彼は何も答えてくれない。
…けれどここで引くわけにはいかないんだ。
『教えて、轟さんって何かあるんですか?』
「なんもねーよ。」
『〜〜〜私!爆豪さんの住所、ネットでばらしちゃいますよ!いいんですか!』
「テメェ言ってる事無茶苦茶だぞ…」
これでどうだ、と言わんばかりに彼を睨む。
自分でも無茶苦茶なことを言ってるのは分かってる。
けれどこの人には普通にお願いするよりもこうした方がいいかな、って思ったから。
私は半ば脅迫にも近い交渉を彼に投げかけた。
…すると、爆豪さんは私の顔を少し見て溜息をつき「大体なァ…」と口を切った。
「個人情報なんてそう簡単にモブに話す訳ねーだろうが。」
『うっ…』
確かに。
爆豪さんが言う事は至極真っ当。
当たり前のことを言われてしまい、思わず力を込めていた手が緩んだ。
(…けれど、)
『お願い、します……。』
「…………」
爆豪さんと距離をとって、頭を深々と下げる。
その様子に爆豪さんは少し驚いていたみたいだけど私は構わずに続けた。
『私のせいで、轟さんにすごく嫌な思いをさせてしまったから…きちんとそのことを謝りたいんです。』
私は知りたい。
轟さんが何を考えていたのか。
轟さんがどうしてあんな顔をしていたのか。
私がどんなひどい事をしてしまったのか。
天然で、料理が出来なくて、時折すごく優しそうに笑う彼。
頭に浮かぶのは轟さんの事ばかりだった。
『私…知りたいんです。』
震える手をぎゅっと握りしめて、思いの丈を吐き出す。
『轟さんのあんな顔、初めて見たんです。』
『だから、きっと彼には何かあるんじゃないかって思って…。』
「……………」
私の突然の告白に爆豪さんは何も口を挟まない。
私は彼のその優しさに甘え、胸の内の思いを吐露し続けた。
「……………」
『……………』
二人の間に、また沈黙が流れる。
けれど私はその間、ずっと爆豪さんの緋色の瞳を見つめ続けていた。
ここで目を離したりなんかしたら、断られてしまう気がして。
「ー…わかった。」
『!…あ、ありがとうございます!』
爆豪さんの声に、思わず肩が跳ねる。
私はほっと息をつくのと同時に爆豪さんにお礼を言った。
「半分野郎の事なんざあんまり知らねぇからな。後でぐちぐち言うんじゃねーぞ」
『はいっ!』
「外だとマスコミがうぜぇから俺の部屋な。」
そんな訳で私は爆豪さんのお宅にお邪魔することになった。