『……………困った。』
「どうしたよ咲子ー」
「今日もまた浮かない顔してるねぇ」
翌日。
私は食堂のテーブルに頬杖をつきながらため息をついていた。
心情をそのまま言葉にすればいつもの友達二人に心配される。
このやり取りも何回目だろう。
「隣の人とは仲直り出来たんでしょ?」
「そうそう、隣の"偽ショート"。」
『え!?あ、うん…』
突然出てきた"偽"という言葉に思わずびっくりしてしまう。
この間三人で話した時に"轟さんがショートなのでは?"という疑惑が出たからそんなあだ名がついたのかもしれない。
(でも本当にヒーロー・ショートだったんだよね…)
あの時はまさか轟さんがヒーローだなんて思ってもみなかった。
人生何があるか分かったもんじゃないなぁ…。
「じゃあさ、何に困ってんの」
『エッ!いや、あの…なんていうか…えっと…』
ウンウンと今までの事を思い出していた時に、そう単刀直入に問われ、悩みの存在を思い出した私は思わず赤面してしまう。
しどろもどろになりながら視線を彷徨わせていたら友達二人がだんだん真顔になって。
「もしや。」
「……好きになっちゃったとか?」
『!!!』
瞬間。
私の顔はボフン!という音を立てて茹で蛸のように真っ赤になってしまって。
それを見るや否や二人の顔が見る見るうちに至極楽しげに歪んでいくから。
私は机に顔を伏せることしか出来なかった。
『あーーーーーーーーー!!』
「マジか!咲子マジか!!」
「どうしてそうなったのか詳しく!!」
『わー!わーわー!!』
食堂の真ん中で、私はなんて話をしているんだろう。
真っ赤になったままの顔を隠しながら現実逃避をするように騒ぎ立てる。
けれど彼女たちはそんな私の様子すら楽しそうに見ていた。
『あぁもう…恥ずかしい…』
「なんか初々しいですなぁ…」
「ですなぁ…」
燃え尽きた灰のように頭が真っ白になる私。
にまにまと、まるでお花でも舞っているんじゃないかってくらいにこやかにこちらを見る二人が恨めしい。
こっちは本気で悩んでいるのに…。
「で?で?いつ好きになったの?」
『えと………き、昨日…?』
「「何故に疑問形。」」
息ぴったりなツッコミをする二人。
私はそんな二人の声を聴きながらぼんやりと昨日のことを思い出していた。
ーーー"ありがとうな、園生"
あんな柔らかくて優しい声、初めて聴いた。
思い出しただけでもドキドキしてしまう。
轟さんのことを考えるだけで、心臓がばくばくするというか…逃げ出したい気持ちになってしまって。
胸が詰まってなんだか苦しい。
これってつまり…そういうことだよね?
『その時の笑った顔がずっと頭から離れなくて…ってあああもう!なんかもう、すごく恥ずかしい…!!』
「……ガチだね。」
「と言うか今どき大学生にもなってそんなピュアな恋してんの咲子だけだよ多分。」
机に突っ伏して、もういやだ!と再度騒ぎ立てる。
小中高と学生やってきたけれど、今までこんなことなかったのに…!
あああ!!!と煮えたように熱くなってしまった顔を隠しながら悶える私。
しかし次の瞬間そんな私に友達は冷静な質問をぶつけてきた。
「ね、確認なんだけど偽ショートって彼女いないんだよね?」
『……………えっ』
「だ か ら!彼女!」
"彼女"という生々しい単語が出てきて、一瞬で頭が冷える。
真っ赤になっていた顔も、その一言でまるで潮が引いたように戻っていった。
『た、たぶん…?』
「まさかの未確認かよ!」
『…………ごめんなさい』
(轟さん…彼女、いないよね……?)
心臓が、先ほどまでとは違う意味でばくばくと暴れだす。
私、喧嘩する前も後も轟さんにご飯作ってあげてたし、普通こういうのって彼女がいたらその子に頼むよね…?
「ーーー…まぁ、咲子にご飯作らせといて他に女がいましたーなんてオチないと思うけど。」
「それじゃとんだクズ男だよね。」
『と、轟さんはそんなじゃないよ!』
言いたい放題言う友達にちょっとだけムカッときて。
もう!と言いながら二人を嗜めれば片方の子が「でもさ、」と切り出した。
「好きな人がいるか位は聞きたくない?」
『えッ…』
「その人もう就職してるんでしょ?だったら職場の女とかさ!」
『"好きな人"…』
前のめりになって、少し興奮気味に話す友だちの声がぐわんぐわんと頭に響く。
(轟さんの、好きな人…。)
それがどんな女性なのか想像も出来ない。
私はもやもやとした感覚に胸を押しつぶされ、つい押し黙ってしまったのだった。