その日の夜。
私は轟さんのお宅でご飯をご馳走になっていた。(作ったのは私だけど)
今日のご飯のおかずは新じゃがが安かったのでじゃが芋の煮っ転がし。
初めて作ったけど我ながら結構うまく出来たと思う。
『こうして食べるのも久しぶりですね』
「そうだな」
『あ、あの…轟さん。聞いてもいいですか』
「なんだ」
"好きな人いるかちゃんと聞いてきな!"
私よりもいくらか弾んだ友達の声が頭の中で蘇る。
(一体なんて聞けばいいんだろう…)
いきなり聞くのは空気的にアウトだしそんな勇気は毛頭ない。
それでもなるべく轟さんのプライベートを知る事の出来そうな質問を…。
そう思った私は言葉を選びながら慎重に問いかける。
『えと…仲のいいヒーローって誰かいるんですか?』
「…仲のいい、っつうと雄英の同期とはやっぱよく話すな。デクとかインゲニウムとか。」
『"デク"…"インゲニウム"…』
誰だろう、その二人…。
轟さんの口から飛び出たのは聞いたことのない名前だった。
多分名前からして女の子じゃなさそうだけど…。
うーん、後で調べてみよう…。
『……あれ、そういえば爆心地は?』
「アイツとも話すと言えば話すな。」
そういえば、と一番知っているヒーローの名前を口に出せば轟さんの食いつきはあまり良くなくて。
その言い方に少し引っ掛かりを覚えたけれど敢えて深堀りはしなかった。
(そんなに仲良くは無いのかな…)
『あの…女の子のヒーローって、いないんですか?』
「女?」
『あっ!いや、ほら…男の人ばかりみたいだったから!』
「あぁ…」
不思議そうに小首を傾げる轟さんに慌ててそんな風に言えばいつものように短い返事。
よかった…変に思われていることは無さそう
「女…女か…ウラビティとはよく飯食いに行くな。」
『"ウラビティ"…??』
"ウラビティ…"こちらも聞いたことのない名前。けれどこの人は女の人らしい。
私は変に背筋が寒くなるのを感じながら、「へ、へぇ…」と情けない返事をしてしまった。
『な、なんか可愛い名前のヒーローですね』
「あぁ、女とか子どもに人気らしいな。」
『そうですか…』
(素敵な人なんだろうな…)
たった今知ったその人の、声や顔は分からない。
けれど轟さんと仲良くしている時点で悪い人じゃないんだろうな、って。
(いや!まぁ…ヒーローをされている時点でいいひとなんだろうけど…。)
(なんだか、なぁ…)
ウラビティさんのことを知れば知るほど、なんだかうまく笑えなくなっていく気がする。
私はそれを悟られないよう誤魔化すためにまた尋ねた。
『その人もエンデ…轟さんと同じ事務所なんですか?』
「いや、ウラビティは事務所が近いだけだ」
『そうなんだ…』
事務所が近いだけ。
それなのに一緒にご飯いったりしてるんだ…。
『仲、いいんですね…』
「あぁ…いい奴だ。」
(笑ってる…)
その笑顔にちくり、と胸が痛む。
なんでだろ…昨日はあんな風に笑ってくれただけで嬉しかったのに…。
「…?どうした園生」
『え!あっいや…今日の味付けちょっと濃かったかなぁ、なんて!』
ははは、と無理に笑い誤魔化す。
(だめだ、こんな嫌なこと考えてるなんて知られたくない…。)
こんな風に詮索したりして、勝手にやきもち妬くなんてバカみたいだ。
空気の漏れた風船のように私の笑い声は徐々に小さくなっていく。
最後には乾いた笑いとなって轟さんのお部屋に寂しく響いた。
「?そうか?今日も美味いぞ。味付けも丁度いい。」
『そ、そうですか…』
もっもっと頬袋を作りながらいつもの調子で"美味い"という轟さんに少しだけ安心する。
…それでも私の心は晴れなくて。
『轟さんはその人のこと…』
「?園生…?」
『いえ、なんでもないですっ』
"どう想っているんですか?"なんて。
今の私にはそんなことを聞く勇気はなかった。