「うん、それじゃあ来週からお願いしようかな。改めて園生さんよろしくね。」
『は、はい!ありがとうございます…!』
今日は喫茶店のバイトの面接日。
履歴書を携えて緊張しながらお店に伺えば、案外すんなりと合格を頂けた。
緊張がほどけて安堵する。
(よかったー…これでお金貯められる…)
欲しい服とかあったんだけど今まで我慢してたんだよね。
頑張ってバイトしてお金貯めよう。
「いやぁ、ホールの経験がある子が来てくれてよかったよ」
『あはは、これから頑張ります!』
店長さんはとてもやさしそうな人だった。
面接中も私が緊張しないように時々冗談を言ってくれたり、白髪交じりなのにどこか若々しい。
茶目っ気がある人だな、と思った。
「もう開店になるけどせっかくだしコーヒーでも飲んでいくかい?それともココアがいいかな?」
『えと…それじゃあココアで。』
この年になってもコーヒーが飲めないなんて恥ずかしい…。
けれど店長さんは入り口の看板を"OPEN"に変えながら「美味しいよね、ココア」と言ってくれた。
(いい人すぎる…!)
絶対シフト多めに入れよう…。
「うちはヒーロー事務所が近くに何件もあるからね。もしかしたら憧れのヒーローとかにも会えちゃうかもよ」
『へぇーそうなんですか。』
(ヒーローあんまり知らないんだよなぁ…。)
今度お店に誰か来たらそれとなく轟さんに聞いてみよう。
もぐもぐとご飯を食べる轟さんの顔を想像して、こっそりとほくそ笑む。
轟さん、今頃何してるのかな。
そんな事を考えていたらカラン…と軽いベルの音が。早くもお客さんがやってきたらしい。
「いらっしゃいませ、いつものでいいかな?」
「お願いします〜」
入ってきたのはふわりとしたボブがかわいい女の子。私と同い年くらいかな?
その子はサイドから垂れた髪をゆっくりと耳にかけて本を読みだした。
(このお店結構人気なんだ…)
コポコポとココアを淹れてくれる店長さんをちらりと盗み見て、こっそりとほくそ笑む。
きっと店長さんの人柄も人気の秘密なのかもしれない。
そんなことを考えていたらココアのいい香りがふわりとお店に漂った。
『いい匂い…』
「うちのココア、結構女の子に人気なんだ」
『………へぇ』
(女の子に人気…か。)
"女とか子供に人気らしいな"
思い出すのはそんな轟さんの声。
("ウラビティ"…さん、)
轟さんのお友達……。
一体どんな人なんだろう。
店長さんなら知ってるだろうか。
『あの、店長さん"ウラビティ"ってヒーローの事知ってますか?』
「ブフッ!!!」
『えぇっ…!?』
私が店長さんにウラビティさんのことを聞いた瞬間。
先ほどお店に来店してきた女の子が盛大にお水を吐き出して。
「大丈夫かいお茶子ちゃん…」
「あッ!いや、ちょいびっくりして…」
ごほごほと咳き込む彼女になんだか申し訳ない気持ちになる。
…もしかして私すごい恥ずかしいことを聞いちゃったのかな…
("今時ウラビティを知らないなんて!"…みたいな)
心配してその子の様子を見ていたら、ちら、とこちらを見た彼女と目が合った。
私はとりあえず持っていたハンカチを彼女に差し出す。
『あの、これ…』
「ごめんね」
えへへ、と笑う彼女。
そんな彼女の様子にこちらも少しだけ気持ちがほぐれた。
(なんだかふんわりしたかわいい子だなぁ…)
「お茶子ちゃん、この子咲子ちゃん。今度からうちでバイトすることになったんだよ。」
『はじめまして!園生咲子です!』
「で、咲子ちゃん、この子は麗日お茶子ちゃん。うちの常連さんだよ」
「こんにちは、いやー、いきなりこんなでほんとごめんね!」
『うららか…』
麗日お茶子さん。
(なんか、ウラビティと名前が似てる…。)
私の考えすぎかもしれないけれど…。
ウラビティさんのことを気にしすぎて、こんなことまで考えるようになってしまった自分に思わず苦笑い。
ここまでくるともう重症だな、なんて。
そんなすっかり放心している私を見て、店長さんはくすくすと笑いだした。
「そう、彼女がいま君が聞いた"ウラビティ"ちゃんだよ」
『え…』
「『えええーーーー!!!』」
ウラビティ…こと麗日さんと声がハモる。
そして同時に私は麗日さんのお顔をバッと凝視してしまった。
(この人がウラビティ…)
(…轟さんと、仲が良いっていう…)
「店長さん!い、いきなりバラさんでも!」
「でもほら、いつかはバレちゃうんだし…ね?」
あわあわと店長に食って掛かる彼女。
私はそんな彼女をまじまじと見つめてしまうのだった。