液晶画面に映るのは、

「こんにちは…あ!咲子ちゃん!」
『いらっしゃいませ、お茶子ちゃん』

木曜日の午後六時半。

いつものバイトの時間。

カランカランとベルを鳴らして来店してきたのはお茶子ちゃんだった。

「今日もつっかれたー…」
『ふふ、お疲れさまでした。』

あんなことがあってから、私とお茶子ちゃんはすぐに仲良しになった。

地方出身だって事とか、好きなものの共通点だとか。そういうのが手伝ったんだと思う。

お茶子ちゃんは仕事帰りとか、夜勤の前には私の顔を見によくお店に寄ってくれて。

私はウラビティが…ううん、お茶子ちゃんが大好きになってしまった。



『今日は何にされますか?』
「いつものカフェオレで!」

お茶子ちゃんのにまっとした笑顔と共に注文がされる。

私は店長に注文を告げて、カウンターに座るお茶子ちゃんの方へと戻っていった。

「はぁ〜…咲子ちゃんほんっと可愛いわぁ…」
『ええ?』

頬杖をつくお茶子ちゃんの冗談に、笑って答える。

はー…と全身が伸び切ってしまっている様子からして今日は相当大変だったんだなぁ。

私はそんなお疲れなヒーローに小さく笑みをこぼして、淹れたてのカフェオレを差し出した。

『はい、ミルクたっぷりカフェオレです。』
「わ〜ありがとう…」

ほわほわと柔らかな湯気を立てるカップを両手持ちして、お茶子ちゃんが幸せそうに微笑む。

『うーん、やっぱり可愛い…』
「ん?何?」
『い、いや!なんでも!』

私の大きな独り言に、お茶子ちゃんは不思議そうに首をかしげる。

私はその真意を聞かれないよう、慌ててお皿を拭き始めた。






(結局、お茶子ちゃんと轟さん、ってどんな関係なんだろう…)

ふぅ、と小さく溜息を逃がす。

私はお茶子ちゃんと仲良くなった今でも彼女と轟さんがどんな関係なのか、聞けずにいた。

…というかむしろ、轟さんと知り合いだという事も言っていていない。

もし、轟さんのことを口にして、

"彼、私の彼氏なの"とか。

そんな事言われたら泣いちゃうかもしれない。

私って、知りたがりの癖に意気地なしだ。

こういうところが嫌になる。

一人で勝手に想像して、落ち込んで…。

(確かにこんな女なんかより、可愛くて前向きなお茶子ちゃんの方がいいよなぁ…)



『私はお茶子ちゃんが羨ましい…』
「エッ!いきなしどうしたん…!?」
『いい子だし、可愛いし…憧れちゃうよ…』
「か、かわ…!?ど、どの辺…!?」
『えっ?うーん例えば…』

それ、と控えめに指さしたのは綺麗に整えられたコーラルピンクのネイル。

派手という訳じゃないけれど、決して地味ではない。

爪先の部分を彩るレースやグラデーションがとっても可愛い。

まさに女の子!って感じ。

ため息が出てしまう。

私もああいうのやってみたいなぁ…

似合わないだろうけれど。

「えへへ…これ友達にやってもらったんよ」
「お茶子ちゃんはいま絶賛女子力アップ中なんだよね。」
「ちょッ!ほんとそういうのやめて!」

話を聞いていた店長の声に、お茶子ちゃんがあわあわと狼狽する。

「例のヒーロー君の心は掴めそうなのかな?」
「ウッ…それが…全然…」
『ヒーロー君?』

なんとなく引っ掛かりを覚える単語が聞こえて、思わず口をはさんでしまった。

話からして、これは恋のお悩みってやつかな…!

(…ということは、いまお茶子ちゃんって彼氏いないの、かな…?)

うーん、と一人思案していても答えは出ない。私は二人の会話を引き続き聞くことにした。

「そのヒーロー君も鈍感だねぇ…もう何度も食事とか行ってるんでしょ?」
「ええまぁ…」
『えっ…』

(何度も食事…?)






"ウラビティとはよく飯食いに行くな"

そんな、轟さんの声が思い出される。

もしかして…もしかして…。






『…もしかして、そのヒーローって。』
「あっごめん!電話だ!」

そう言って、嬉しそうにスマホをとる彼女。

ぱたぱたと駆け足で店の外へ出ていく彼女の背中はもう見えなかった。

…でも、私は見てしまった。

スマホの画面に映る"轟くん"の三文字を。