バイトが終わって、外は真っ暗になってしまった。
私は見慣れたエントランスでエレベーターが来るのを待つ。
(お茶子ちゃんが…轟さんを好き…?)
結局。
あの後"またご飯に行くことになった"という嬉しそうな彼女の発言もあってか私は上手く笑えなくて。
ただ口角を上げて「よかったね」としか言えなかった。
そのあとすぐに轟さんからは「友だちと飯に行くことになった」なんて簡単なメールが来て。
私はその相手がお茶子ちゃんなのだとすぐに悟ってしまった。
(ーーーもうやだ…)
私は誰かに置き去りにされたような、ひどく切ない気分でいっぱいだった。
(友だちの、好きな人が、自分の好きな人…)
なんだか何処かで見たドラマみたい。
主人公の恋を応援する女の子たちはみんなこんな気持ちをひた隠しにしていたのか…。
(…泣いちゃ駄目、)
滲む瞳に叱咤してもじわじわと視界は侵食しされていく。
こっそりと、肩を狭めて震える息を逃がせばぽたぽたと雫は落ちていって。
あぁ駄目だ…こんなとこ、誰にもみられたくない。
エレベーターが来るのが遅く感じる。
私は少しだけうずくまって、時間をやり過ごそうとした。
悲しい、それに寂しい。
なんだか頭も痛い気がする。
今日の私、最悪だ。
『ふ…うっ、う…』
「オイお前何してーーって」
『ば、くごうさん?』
埋(うず)まり出た思いにぐるぐるとしていたら聞き覚えのある声に肩を叩かれて。
涙でぐちゃぐちゃな顔を何とか逸らしながら、人物を確認すれば、お隣の爆豪さんだった。
けれど爆豪さんは私の顔を見るなり険しい顔つきになっていって。
「ーーー痴漢か。ストーカーか。どっちだ。」
『はい?』
「チッ!オメェの場合はストーカーっぽいな。オイつけてきた奴の顔とかーー」
『あッち、ちがいます…!!』
何か盛大な誤解を与えてしまっている。
今混乱状態にある私の頭でもそれだけは分かった。
両手をぶんぶんと振りながら平気だというアピールをしていれば、やっと分かってくれたみたいで。
「あぁ?じゃあンなとこでぐすぐす泣いてんじゃねぇよブスが」
『うっ!そうですよね…すみません…』
思わぬ悪口に若干怯みながらも私はごめんなさい、と彼に謝罪した。
(あー泣いてるところ見られちゃうし、本当に恥ずかしい…。)
今日は厄日だ。
お茶子ちゃんの好きな人は轟さんで確定っぽいし、泣いちゃうし、それを爆豪さんに見られちゃうし…。
多分今ので化粧もぐちゃぐちゃだし…
『はぁー…』
「………なんかあったんか」
『え?』
「ねぇーならため息なんざ吐くな。鬱陶しい。」
『…………ちょっとだけ、嫌なことがありました。』
私の友達の、女の子の話なんですけど。
なんて。
見え透いた嘘の前提を引き合いにして、私は重たく感じる口をそっと開いた。
『その子、最近好きな人が出来たみたいで…。でも、その子の友達もその人の事、好きみたいなんです。』
ぽつりぽつりとあったことを断片的に話す。
ただそれだけなのに、胸の苦しさで声が震えてしまって。
爆豪さんは私の声を静かに聞きながら遠くを見て、コートに手を引っかけていた。
『ーーって、すみません、どうでもいい話しちゃって。』
「聞いたんか。」
『えっ』
「だ か ら !ソイツに気があるのか、って直で聞いたのかって聞いてんだよ。」
『!』
聞いてない。
お茶子ちゃんに直接聞いた訳ではない。…けれど。
(あれは、どう見ても…)
「別人だったってオチがあるかもしれねぇーだろ。」
『それは…』
「憶測でびゃーびゃー泣くな、このネガティブ能天気女」
そう言って、爆豪さんは私が呼んだエレベーターに乗って、姿を消してしまったのだった。
(今のはもしかして…励まして、くれたのかな?)
私はただぼんやりとそんなことを考えながら立ち尽くすことしか出来なかった。