『ただいまぁ…』
そんな大きな独り言を呟いて、鞄をとすん、と床に下ろす。
だめだ、今日は何もしたくない…。
お風呂も明日の朝シャワーでいいや、とものぐさな自分が現れる。
『明日は学食でいいや…』
お弁当を作るのも面倒だ。
私はぐちゃぐちゃになった心を慰めるように溜息をついた。
(今日が轟さんがいない日でよかった…。)
顔を合わせるのも、ご飯を作るのも、今はとてもじゃないけれど無理。
こんな気持ちで轟さんに会ったら、私、どうなるか分からなかったから。
私はそんなことを考えながらぼふん、と身体をベッドに預ける。
(…でも、今頃二人は…)
"別人だったってオチがあるかもしれねぇだろ。"
(そんなこと、あるのかなぁ…)
頭に残るのは爆豪さんの声。
苛々とした様子で荒っぽいアドバイスをしてくれた彼を疑う訳ではないけれど。
どうにもあの時のお茶子ちゃんの顔が離れなくって。
『お茶子ちゃんに直接聞く…』
でも、なんて?
なんて聞けばいいの…?
私はごろりと寝返りを打って、いやに鼓動を強める心臓を鎮めようとする。
("私、轟さんのこと好きなんだけど、お茶子ちゃんももしかして好きだったりする?")
『……ないないないない!!!!』
それはない!
というかそんな事聞く勇気ない!
私は慌てて頭をぶんぶんと振り、脳内で浮かんでしまったイメージを吹き飛ばした。
『やっぱ駄目だよ爆豪さん…』
ふう、と何度ついたか分からない溜息をこぼして、私は天井を見上げる。
喧騒もなく、アナログ時計の秒針の音だけが響く部屋はひどく孤独で。
私はどこか寂しい気持ちを天井へぶつけてそっとクッションで目元を覆った。
お腹空いた。けどなんにもしたくない。
轟さんのことも、お茶子ちゃんのことも、これからどうしたらいいんだろう…。
(…いつかは聞かないと、だなぁ。)
ピンポ―――ン…
ふぅ、とため息をついた瞬間。
突然チャイムの音が聞こえてきた。
『えっ…!?』
時計を見れば今は夜の十時半。
こんな時間に来客なんて来たことがない。
(轟さん…?でも轟さんご飯に行ってるって話だし違うよね?)
時間的に宅配業者でもない。
五月蠅くはしてなかったけれどもしかして下の人とかかな…。
とりあえず出なきゃ。
『はーい。』
「………」
『あれ、爆豪さん?』
なんと。
玄関を出た先にいたのは先程顔を合わせた爆豪さんだった。
モッズコートを見に纏い、何かを持っている彼は少しだけ不機嫌そうで。
私は少しだけ赤くなってる鼻先がちょっと気になった。
(もしかして…チャイム慣らそうか迷ったのかな…。)
「ん。」
『…へ?』
何の脈絡もなく、すっと差し出されたのは一人用のお鍋。
私は訳が分からなくて思わず声を漏らしてしまった。
「"へ"じゃねーわ。食え。」
『えええっ!いいんですか…!というかコレ…』
爆豪さんの手作り…?
熱くないようにミトンを両サイドに挟んだまま渡してくれたそれにびっくり。
もしかして、私が泣いてるのを気遣ってくれたの…?
『開けてもいいですか?』
「部屋で開けろ」
『わ!…お茶漬け?』
「話聞けや!」
爆豪さんの声を無視して蓋を開ければ美味しそうなお茶づけの香り。
真ん中にちょこんと梅干しまで入っているあたり、この人相当料理出美味いんじゃないかな、なんて妄想を膨らませてしまう。
(この見た目で料理上手とか…!)
意外過ぎる。
そんな事、口が裂けても言えないけれど。
「ーーー食ってねぇンだろ、メシ。」
『あ…はい。』
「ソレ食ってさっさと寝ろ。お前のため息でかくてうるせぇんだよ。」
『えええぇ!!き、聞こえてたんですか?!』
嘘!と言っても彼の不機嫌そうな顔は変わらない。え、嘘本当に聞こえてたのかな…。
ぐるぐると自己嫌悪に近い被害妄想に苦しまされる。
私は頂いたお鍋を持って静かに冷や汗をかいていた。
(壁やっぱり薄いのか…気を付けなきゃ。)
『うっすみません…今度から気を付け…』
「嘘だわ。つかいつまでもへこんでんじゃねーよ」
『えぇーーっ!?』
「じゃーな。」
『あ……』
そう言って、くすりと楽し気に笑った彼の笑顔は見たことがない位穏やかな顔をしていた。