「ーーー聞いて!私、女の子の友達が出来たんだよ!」
「ヒーローじゃなくて?」
「ううん、同い年の学生さん!喫茶店でバイトしてるところでいろいろあって…それで友達に!」
「へぇ…いい子なんだ。」
「そう!もうめっちゃ優しくて可愛くて!」
"ヒーロー以外に新しく友達が出来るのは久しぶりだ"と得意げに話す麗日に緑谷が「よかったね」と呟く。
俺はそれを聞きながらあの日の園生のことを考えていた。
("なりたいもの"…か。)
"なりたい自分になっていいんだよ"
園生とのやり取りの後で思い出したのは母さんのあの言葉。
十年近く前の言葉のはずなのに今でも鮮明に覚えてる。
(…はずだったのに、な。)
目まぐるしく変化していく日常の中で、いつの間にか忘れてしまっていたらしい。
園生の言葉で母さんの言葉を思い出すなんてな…。
"あなたは…あなたのなりたいものに、なっていい!!"
あの時。
園生の言葉を聞いて、胸につかえていた何かがふっ、と軽くなったような気がした。
そして同時に胸がきゅ、と詰まる思いがしたのは何故だろう。
(園生…)
園生の事を思い出すと、胸がきつく締められるように苦しい。
これは、なんだ…
「そういえば轟くん、例のお隣さんとはどうなったの?」
「あぁグレーゾーンの…」
「グレーゾーン?」
緑谷の問いかけに麗日が素早く反応する。言葉の意味はよく分からなかったが、俺はありのままを話した。
「あぁ。この間までお互い気まずかったんだが、この間また飯作って貰った。新じゃがの煮っ転がし。」
「うわっ美味しそう…!めっちゃ羨ましい」
「気まずかったって…どうして?」
俺の言葉に麗日は羨ましい、と顔を蕩けさせていたが、緑谷は違った。
大きな目をこちらに向けながら不思議そうな顔をしている。
そういえばあの時。
園生の事は話題に出したが、気まずくなっていた事は話していなかったな。
俺はあの時の事を苦々しく思い出しながら、二人にかいつまんで説明した。
「俺の仕事の事がバレそうになって、つい怒鳴っちまったんだ。…あいつは悪くなかったのに。」
「「あー…」」
事情を知っている二人は俺の声に眉を下げ、静かにウンウンと頷いた。
「そいつには俺の仕事の事知られたくなかった。中途半端な事ばかりやっていたからな…それでもあいつに怒鳴るのは間違ってた。」
「…仲直りして、色々話せた?」
「あぁ。…それでそいつが言ってくれたんだ。"なりたいものに、なっていい"って」
園生の言葉を思い出して、ふっと顔が緩む。
園生にあんなことを言って貰えるとは思っていなかった。
「ーー優しい人、みたいだね。」
「あぁ。いつもの飯の事とかも含めてなんか礼がしてぇんだが何すりゃいいか分かんなくて…」
「うーん、それとなく本人に聞いてみるとかは?」
女の欲しいモンなんて分かんねぇ。
だから今日は麗日の意見を聞こうと思ったんだが。
麗日のもっともな意見に思わず口をつぐむ。
暫く黙ったままの俺。
そんな俺を心配した緑谷が「どうしたの?」と尋ねてくるまで、俺は何も喋れなかった。
「どうしたの?何か変なものでも…」
「何話したらいいか分かんねぇ…」
「「はっ?」」
「何話したらいいか分っかんねぇんだ…そいつと。」
「そいつと話してると確かに楽しい。…だが、何かこう…苦しくなるっつーか、心臓が痛ぇ…。」
胸に手を当てながら、そう静かにぽつりと呟いてみても誰も何も言わなくて。
俺は不思議に思い、目の前にいる二人の方へ目をやってみれば…
「きた…」
「きたね…」
「なんだ、敵の要請か?」
「もっとすごいもんだよ」
緑谷と麗日が大真面目な顔でそんなことを言うものだから。
俺はてっきり敵の迎撃要請かと思ったんだが、事はそれよりヤベェみたいだ…。
「?俺は何をすればいいんだ?」
「とりあえずその子にお礼を考えなきゃなんじゃない…?」
「そやね!!そういうのほんっと大事やから!」
「そうだな。蕎麦とかどうだ?」
「「それはだめ!!!」」
「はぁ〜…これは…ちょっと…」
「うん。やっぱりきちんと考えてあげんと…」
「よく分からねぇが頼む。」
ため息をつきながら苦笑いを浮かべる緑谷と、両手に拳を作る麗日。
俺にはそんな二人がとても頼もしく見えた。