平行線が終わるとき

「あっ咲子ちゃ〜ん!!」
『お茶子ちゃん…』

約束の時間。

目的の場所に行けばそこには可愛らしく爪先をそろえた咲子ちゃんがいて。

名前を呼べばはっとした咲子ちゃんと目が合う。

…けれどその表情は少しだけ張り詰めていて…。

(何かあったんかな…)



「ごめん、現地集合になってもうて…」
『ううん、お茶子ちゃん忙しいんだもん。仕方ないよ』

申し訳ない、と両手を合わせれば眉を八の字にして微笑む彼女。

どこか無理をしている。

そう感じたけれど、私はあえて明るく声を発した。

「中入ろ?」
『うん。』

そう返事をする彼女の顔にはどこか影が見えた。






『お茶子ちゃん、私、謝らないといけないことがあるの…』

それは突然の事だった。

店員さんに飲み物を注文して、お互いの近況を話して。

それからおもむろに彼女が口を開いたのだ。重苦しそうな声で。

『…私の好きな人ってね、お茶子ちゃんの知ってる人なの。』
「えっ!!」

その声に、私は思わず声が漏れ出てしまった。

(うちの知ってる人…?)

誰だろう。なんて思いよりもまず先に咲子の表情の暗さに気持ちがいった。

そう言えばこの間の電話で、"好きな人がいる"と言った彼女の声はいつもより暗かった気がする。

(咲子ちゃん…何をそんなに落ち込んどるんやろ…)

お茶子は咲子の様子を気にかけながらもまだ何か言いたげな彼女の声に耳に傾けることにした。



『その人と初めて会ったのは今から一か月くらい前なんだけど…。』

「一か月くらい前…?」

じゃあ自分と会うより前か。

そう、お茶子は冷静に頭で整理する。



『その人、不思議、と言うか天然な人で…最初は私の近くにはいないタイプだなぁ、なんて思ってたんだ。』

『それでも、仲は良かったの。…ご飯作ってあげたりしてたし。』

(不思議で天然…?)

そんな人物、自分と咲子の共通の知人でいただろうか。

お茶子はますます顎を捻った。






『それであるとき喧嘩、っていうか…気まずくなっちゃった時期があって…』



ん?



『その人と、つい最近仲直りする事ができたんだ。…でも、その時私…その人の事好きになっちゃったみたいで…。』



ん?……んん?



どこかで聞いたような話だ。

お茶子はぱちぱちと目を瞬きしながらゆっくりと過去に思考をめぐらせる。

少し前にもこんな相談をされたような気がする。






"気まずくなっちゃった時期があって…"

"この間までお互い気まずかったんだが…"

"ご飯作ってあげたりしてたし"

"この間また飯作って貰った"



「あ。」

まるで豆電球に電流が通ったような。そんな閃きがお茶子に訪れる。

(もしかして…いや、もしかしなくてもこれは…)








「………それって轟くん?」
『!!!』

『な、なんで…!!』



やっぱりかーーーーー!!!






「あっ!いやぁその…!不思議、とか天然辺りから怪しいなぁ…って」

まさか当の轟から相談を受けていたなんて言える訳がない。

お茶子は慌ててそれらしい理由を述べ、両手を勢いよくぶんぶんと振った。



(えっ…じゃあ、轟くんの言うてた隣の子て…えっ…ええっ…!?)

全力疾走をしきった後のように、ばくばくと心臓が暴れている。

(轟くんの好きな子って咲子ちゃんなん…!?えっ…嘘ぉ!!)

目の前にいる友人が、轟の想い人。

その事実にお茶子は震えたが、それは喜びから来る興奮によるものだった。






『…ごめんね、お茶子ちゃん。』
「は?」
『だって…お茶子ちゃんだって轟さんのこと好きなんでしょ?』
「…………………は?」

ぽたり、ぽたりと焦げ茶色のテーブルに涙が跳ねる。

お茶子の歓喜に近いテンションとは違い咲子は少ししなびた悲しげな声で小さく謝罪をした。

「な、何言うてんの…?」
『えぇっ…?』
「私の好きな人は轟くんとちゃうよ…?」

自分と咲子との気持ちの温度差に、思わずお茶子も正気に戻る。

お茶子は咲子に説き伏せるように穏やかに事実を言った。

『う、嘘…!』
「嘘とちゃうよ!私…高校ん時からちゃんと好きな人がおって…!」
『私…私、てっきりお茶子ちゃんも轟さんのこと好きだと…』


「『…………ぷっ!』」

あくあくと口を開け閉めする彼女。

けれど次の瞬間、事の展開の急さに二人は吹き出してしまった。

「『あははははっ…!!!』」

周りの客が遠巻きに自分たちを見ている。

けれど二人にとってはそんなの小さな事で。

あぁ、よかった。

やっと笑顔が見れた。

暫くして、笑いが納まる。

咲子は穏やかな顔で「よかったぁ…」と呟いた。



(それでこんなに落ち込んでたんか…。)

力無く、お茶子はふっ…と笑う。

お茶子は咲子との距離が以前よりも近くなった気がしてどこか嬉しそうに咲子をみつめていた。