『あっ爆豪さん!』
「チッ…」
仕事から帰ってきたタイミングで、聞こえてきたのはあのアホ女の声。
(ンでこんな時間までうろうろしてんだよ…)
時計をちらりと見ればもう九時前。
敵の活動が活発になる時間帯だ。
(ただでさえここらは変な奴も多いのに…)
今日自分が確保してきた敵やら変質者やらを思い出す。
…しかも被害女性達の姿が園生と被って。
「チッ…」
爆豪は小さく舌打ちを打った。
「テメこんな時間までどこ行ってたんだよ」
『この間、話した友達の所です』
「友達だぁ?」
"友達もその人の事、好きみたいなんです"
(ーーーあれのことか…)
"好きな人"、なんて可愛らしい言葉は爆豪にとっては無縁なものだった。
小中高と学年が変わっても、女子という生き物がそういった話が好きだというのはなんとなく知ってはいたが、さして興味もない。
けれど、
(クソ…)
あの時の園生の言葉を思い出し、ズキリと爆豪の胸が痛む。
それが何故なのかは今の爆豪にはわからなかった。
『ーー誤解も解けて、サッパリしました!爆豪さんありがとう!』
がばっと頭を下げる園生に少しだけ眉が吊る。
どうしてこの女はいつもこう、"はきはき"しているというか、"いきいき"としているのだろうか。
だからこそ、この間の様に弱られているとなんとなく調子が狂う。
(なんなんだこの女…。)
爆豪が胸の違和感に眉間にしわを寄せるのと同時に、園生は「ちょっと待ってて」と言って一旦家に帰ってしまった。
園生の声など無視して帰っても良かったのだが、園生に貸したお茶碗の存在を思い出す。
きっとあの女もそのつもりなんだろうと爆豪は大人しく待つことにした。
『爆豪さん、あの、これ…』
ややあって、園生は本当にお茶碗を持って帰ってきた。
おずおず、といった具合にお茶碗を丁寧に返す園生。
『ありがとうございました!お茶漬け美味しかったです』
「そーかよ」
そう言って両手でそっと差し出す園生の手元から目的の物をするりと攫う。
にこにこ。
そんな擬態語が似合う表情だった。
(変な女。)
自分相手にここまで警戒心が薄い女に会うのは爆豪にとってこれが初めてで。
やっぱり普通の女じゃないな、なんて。
返された茶碗に目線を落とし、爆豪は想いを巡らせる。
どうして自分はこの女にここまでしたんだろう。
心配の声をかけたり、飯を作るのだってそうだった。他人から見れば励ましとも見れるメモまで渡して…。
(園生咲子…)
ただの隣人だったはずなのに。
どうして自分はこんなに…、
『?』
「…………」
じぃ、と見つめていると園生がそれに気づいたのか同じように自分を凝視している。
そのユラユラと揺れる瞳に映った自分はどうにもやるせない顔をしていた。
「お前の…」
『はい?』
「お前の言ってた、好きな奴ってーーー」
(何、言っているんだ。)
「何してるんだ?」
突然聞こえてきた第三者の声に、爆豪ははっと我に返る。
(この声ーー)
自分の向かいから聞こえてきたのは、聞き慣れた声。
『とどろき、さん…』
「お前…」
そこには園生の後方で眉間にしわを寄せ、自分を睨む轟焦凍の姿があった。
「爆豪…お前、いま何してた…」
「別に。なんもしてねーわ。」
めらめらと左の炎を揺らめかせて、轟は爆豪に問う。
しかし爆豪はそれに対し逆上する訳でもなくただ静かにそう言った。
(ーーー何も、何もしてない。)
自分で言ったその言葉に、爆豪は何故か違和感を感じてしまうのだった。