「………………」
緑谷と飯に行って、自分の部屋に戻ろうとした、あの時。仕事帰りらしい爆豪の姿と園生の背中が見えた。
(爆豪…)
園生と話していた時の爆豪の顔は、思い詰めたような、何とも言えない顔をしていて。
どうしてなのかは分からなかったが、爆豪の表情が園生を想う自分の姿と被った途端。
園生を、爆豪に盗られてしまう気がしたんだ。
「はぁーーーー…」
情けねぇ。
爆豪にも、そして園生にも悪いことをした。
なんであんなことしちまったんだ、なんて無数の後悔が胸の内を占領する。
"冷静を欠いてはならない"ヒーローが笑わせる。
けれどあの時の胸が詰まる思いは、理性なんかじゃ抑えられなくて。
"ーーー轟くん!!"
(あんな風に呼ばれたのは…初めてだったな。)
あの時の園生の声が耳から離れない。
涙ぐんだ張りのある声と、抱き着かれた背中の感触。
園生が触れた部分だけ、まだ熱が残っているような気さえしてしまって。
(園生…)
(園生、咲子…。)
咲子。
そんな風にいつか呼べたら…。
「何考えてんだ、俺。」
園生にあんなことを言わせてしまった癖に。園生を、怖がらせてしまった癖に。
脳内の自分がゆっくりと語りかけてくる。
"け、喧嘩…しないでっ"
怒りに身を任せて個性を出して。
園生にあんなこと言わせて。
(不安に、させたよな…。)
俺はやりきれない気持ちをどうにかしたくてカラカラと窓を開けた。
ひんやりとした風が部屋の中に入り込んで髪を揺らす。
もうすぐ夏か、なんて独り言ちて俺はベランダへと歩を進めた。
(この隣には園生がいるんだよな…。)
ふと、壁の向こうに目をやって園生の顔を思い出す。
(轟さん、)
俺が思い出す園生の顔はいつだって柔らかくて、優しくて。安心する。
これじゃまるでアイツの方が俺のヒーローみたいだ。
「フッ…」
俺はそんなことを考えながら濃紺の夜にため息を溶かした。