「お疲れ様、二人共」
『『"お疲れさまでした"』』
サキコちゃんと共に頭を下げれば店長がゆらゆらと手を振ってくれた。
『今日は疲れたね、ごめんね無理させちゃって…』
『"いえ、私の方は…それより咲子さん大丈夫ですか?何か悩み事もあるみたいだし…"』
『アッいや、それは本当…!大丈夫!』
ドッペルゲンガーのサキコちゃんと私の意識は共有されていない。
だからきっと彼女は私がどんなことで悩んでいるか分からないんだろう。
とても心配そうな眼でこちらを見ている。
(サキコちゃんにはいつか轟さんに会ってもらおうかな…)
そしたら、色々と相談できるし。
そんなことを考えながら私はカツカツと帰り道を歩いていた。
ーーーその時。
カシャッ
『ーーえっ』
不意に聞こえたカメラのシャッター音。
突然のことに私たち二人の動きが止まる。
変だ。
私たち以外通行人なんていないのに…。
『"ーーいま、変な音しませんでした?カメラみたいな…"』
『う、うん…』
サキコちゃんのその声に私が頷けば、彼女は辺りを見渡す。
『"…やっぱり誰もいませんね"』
『…何かの聞き間違いだったのかも』
『"ま、待ってください咲子さん!"』
そうだよ、きっとそうだ。
私は自分を納得させるようにそう呟いて、ずんずんと歩き出す。その後ろをサキコちゃんが追いかけるようにして小走りで寄ってきた。
コツ コツ コツ
ザッ ザッ ザッ
コツコツコツコツ
ザッザッザッザッ
(なんか…変だ)
私の靴音に合わせて、後ろから誰かがついてくる気配がする。
一瞬サキコちゃんの靴音かとも思ったんだけれど、彼女は今日私と同じパンプスだしあんな靴音はしないはずだ。
明らかに誰か、いる。
『………っ!』
私は思い切って後ろを振り向いてみたけれどそこには誰もいなくて。
私は怖くなって。個性を解除し走り出してしまった。
『はぁ…はぁ…っ…はっ』
怖い、怖い。
誰なんだろう、とか。どうして、だとか。
そんなことを考える余裕は全然なくて。
私は夢中になって走った。けれど足音の主はそのスピードをなかなか緩めてくれない。
(やだ、だれか…だれか助けて…!!)
自宅へ戻るのは危険。
そんな考えが浮かんで適当に走ってるけれど、もし掴まっちゃったらどうしよう…
(なにされちゃうんだろう…怖い…!!)
そんな時、薄暗い夜の景色に明るい光が見えた。
(コンビニだ…!!)
『…はぁッ…は、…はぁっ』
私は息も絶え絶えになりながらコンビニの入り口近くに到着した。
一応後ろを確認してみる。けれどそこにはやはり誰もいなかった。
もう大丈夫…なのかな。
『はぁ…はぁ…っは、』
膝に手を当てて、荒くなった息を整える。
(あの人(?)は一体何だったんだろう。)
足音はちゃんと聞こえていたのに姿は見えなかった。
けれど私が足を緩めれば靴音は遅くなったし、あきらかに私のことつけていた…。
(あれは絶対気のせいなんかじゃない…)
震える手をぎゅっと掴み、座り込んでいたらふと聞き慣れた声が空から降ってきた。
「園生?」
『と、どろきさ…?』
そこにはコンビニの袋を持った轟さんが不思議そうに私を見下ろしていて。
『とどろきさ…とどろき、さん…』
「園生?どうした?」
どうしてだか分からない。けれど私はその時涙を抑えることが出来なかった。
轟さんの顔を見たら安心して。胸に抱えていた恐怖が一気に爆発したみたいになって。
私がえぐえぐと泣いていると轟さんはハンカチを取り出してとりあえず、と涙を拭いてくれた。
『ご、ごめんなさ…っ私、怖くて…本当にこわくて…っ』
「大丈夫だ、もう、大丈夫だ…。」
私はただ、困り果ててしまった轟さんの胸を借りて泣きつくことしか出来ずにいた。
そんな私に轟さんは戸惑いながらも、子どもをあやす様に背中をポンポンと叩いてくれたのであった。