「それってストーカーなんじゃないの?」
『ストーカー…?』
次の日、私は大学の友達に昨日のことをありのまま話した。
学生食堂の中がなかなかにざわついていたせいかあまり人の目を気にせずに話すことが出来た。
「でもマジで怖いよねー…。そのお隣さんがいてよかったわ〜」
「偽ショート超ナイス。」
『…うん、』
昨日のことを思い出して、私はふ、と目を伏せた。
"大丈夫だ、もう、大丈夫だ…。"
あの時の轟さんの優しい声、撫でる手、体温。
全部、安心できた。
轟さんがヒーローで、誰かを介抱…というかフォローするのが上手だからかもしれないけれど。
私にとってはいてくれた相手が"轟さんだったから"っていう理由の方が大きくて。
とくりと胸がざわめき出す。
私はパックジュースのストローを小さく吸った。
「ここらって治安いいと思ってたんだけどなー」
「ねー。咲子ってぽやぽやしてるしまた来るんじゃないの?そういうの。」
『あっ…でも遅くなる日はお隣さんが迎えに来てくれることになったから…』
「「はぁっ!?」」
私の声に、ダンッと机を叩いて前のめりになる二人。
私はそんな二人に驚いて「わぁ!」と小さく悲鳴を上げてしまった。
「お隣さん…って偽ショート!?」
『う、うん…。』
「えー!バイト終わりに好きな人が迎えに来てくれるってヤバくない…?めっちゃ羨ましいわ〜…」
『あっ!いや!なんていうか…その……ねぇ?』
によによ、によによ。
悪戯っぽく笑ったかと思えば顔を薄く赤らめる二人。
(私も最初は舞い上がってんだけど…ね。)
"きっとそれは轟さんがヒーローだから見過ごせなかっただけだと思うよ"なんて。
そんなことは言えないから私は適当に誤魔化すことにした。
"ーー明日から迎えに行く。"
"えっでもそんな悪いですよ…それにほら、私の勘違いかもしれないし。"
"泣いてる奴が何言ってんだ。"
"うっ…"
"とにかく、明日から迎えに行くからな。"
少しだけムスリと怒った彼の横顔。
それを見る時はいつも不安だったのに、その日だけはなんだかじんわりと嬉しくなってしまって。
(私って悪い奴だな…轟さん本気で心配してくれているのにそれが嬉しいだなんて。)
昨日のことを思い出して、ゆるゆるとにやけてくる口元を両手で抑える。
すると友人の一人が「ちょっとちょっと、」と眉をしかめた。
「偽ショートと近づけて嬉しいのは分かるけど、マジでストーカーとかだったら本当にやばいからね!?」
「そうだよ咲子。本当に気を付けなよ?学校から帰るときもドッペルゲンガー出しときな。」
『う、うん…。』
箸を使ってちょいちょい、と注意勧告をしてくれる友人の存在は本当にありがたい。
私は鞄の中に入れていたメモ帳を取り出して、彼女たちのアドバイスを箇条書きしていく。
「広くて明るい道を通ること!」
「偽ショートをきちんと頼る事。」
『う、うん』
「会話に詰まっても焦らない事。」
「上目遣いを常に意識する事。これ大事。」
『………うん?』
「下手にきゃぴきゃぴしないのも大事だねー、まぁ咲子はそういうのしないと思うけど。」
「あとはどう偽ショートと近づくかだけど…」
『ちょ、ちょっとちょっと!』
話が大分逸れている気がする。私は軌道修正を図るべく声をあげた。
『なんでそこでとど……ん゛んっ!お隣さんのことが沢山出てくるの!!』
いけない。轟さんの名前を出してしまうところだった。私はなんとか咳払いをして誤魔化し、二人にジト目を向ける。
「だぁってさー…なんか楽しいじゃんこういうの。」
「仲良くしてたらストーカーも彼氏と勘違いしてくれるかもしれないし。」
『もー…。』
ウキウキとした表情を隠さない友達と、もっともらしいことをいうもう一人の友達。
私はそんな二人に呆れながらも、どこか呑気に"事"を考えていたんだ。