爆豪さんとお料理してから二日後。
私は午後の空きコマを利用してバイトに勤しんでいた。
ちなみにあの日以来、追いかけられていると感じることも無く、平和な日々を過ごしている。
(…やっぱり、気のせいだったのかも。)
勘違いなら勘違いで良いんだけど…。
(なんか…不安だな…)
『"ーーー咲子さん、あちらの注文お願いします!"』
『…………あ、はーい!』
サキコちゃんの声にふ、と我に返る。
(駄目だ。今は仕事に集中しないと。)
私は小走りでサキコちゃんが合図をしたテーブルに向かった。
するとその席にいたお客さんはこちらが分かりやすいよう手を挙げてくれていた。
(あ、あの人…。)
『ーーーお待たせしました、ご注文お伺いいたします。』
席にいたのは大学生くらいの男性お一人様。
最近このお店に来てくれるようになった常連さんだ。
「いつものアイスティー一つ。」
『はい、アイスティーお一つですね。』
注文票にさらさらとメモを取り、「以上でよろしいですか?」と確認をする。
するとーーー
「ねぇ、君名前はなんて言うの?」
『えっ…?』
突然、お客さんが初めて注文以外で口を開いた。
私はそれに驚いて思わずペンを止める。
「園生さん、ってうのはネームプレートで分かるだけど下の名前が分からないからさ。」
『え、っと……名前は…』
こういうのって教えてもいいのかな。
お客さんを無下にするわけにはいかないよね。
(でも一応個人情報だし…。…どうしよう。)
私は困ってしまい、その場で固まってしまったのだった。
***
『はぁ…疲れた…。』
『"今日もお客さん沢山でしたね"』
『うん!』
バイトが終わり更衣室にて制服のタイを外す。
疲労感に身を任せてはぁ、と盛大な溜息をつけばサキコちゃんが困ったように笑った。
常連さんにもよくしてもらえるようになったし、段々とバイトにも慣れてきた。
(やっぱり接客業って好きだなぁ…。)
『"そう言えば今日、大丈夫でした?…あのお客さん、しつこかったですね…。"』
『あー…うん、そうだね…。』
サキコちゃんが言っているのはさっきの若いお客さんの事だろう。
結局あの場は店長さんが気づいて収めてくれたけど、あのあともちょっとしつこくて。
「どこの大学通っているの、」とか。「電話番号教えて?」とか。確かそんなことを聞かれた。
『"すみません、私あの時違う方の注文を取っていて…"』
『いや、全然気にしないで!サキコちゃん忙しかったの分かってたし…店長が助けてくれたから!』
(とは言うものの、ちょっと怖かったな…。)
ふぅ、とまた小さく溜息をついてスカートを脱ごうとした、その時。
カサッ、という音がポケットから聞こえてきた。
『あれ…』
『"どうかしました?"』
『いや、いまなんかポケットから………って、なんだろ…これ。』
『"メモみたいですね"』
制服のスカートのポケットに入っていたのは折りたたまれたメモ。
私たち二人はまじまじとそれを見る。
『私こんなメモ入れた覚えないんだけど…。』
『"とりあえず中身見てみませんか…?"』
それもそうだね、と私はおそるおそるメモを開いてみることにした。
しかし、そこには予想だにしていない内容のメッセージが込められていた。
『……………なに、これ。』
"好きだ。好き好き好き好き好き好き愛してる愛してる愛してる愛してる欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい。
君が欲しい。 "
『ひっ…!』
私は気持ち悪くて思わずメモを手放してしまった。
気持ち悪い、怖い。
『"咲子さん…?どうか……って、これ!!"』
メモを拾って中を見たサキコちゃんの顔色が変わる。
私はそんな彼女の声になんて言ったらいいか分からなくて。ただ「どうしよう…」と声を震わすことしか出来なかった。