『すみません、付き合わせちゃって…』
「いや、いい。俺も買いたいものあったしな。」
漆を塗ったように真っ暗な夜を、轟さんと二人並んでコンビニまでてくてくと歩く。
淡々と応える轟さんに恐縮しつつも、私はどこかでこの状況を喜んでいた。
(ちょっと恥ずかしいけど…お茶子ちゃんのおかげだな。)
私は元気よく手を振って夜勤へと向かった友人に心の中で小さく感謝した。
「………」
『………』
(なんだかいいな、こういうの…)
二人分の靴音と、息苦しく無い沈黙が二人を包む。
今気がついたけれど、轟さんは私の歩調に合わせて歩いてくれているみたいだ。
そんな小さな優しさに、胸がきゅん、と切なくなった。
(いつか…本当にいつか、私の気持ちを伝えられたらいいな…。)
"あなたの事が好きです。"
(そんな台詞、言える日なんて来るのかな…。)
愛の告白というには幼稚かもしれない月並みな台詞。
けれど、轟さんへの気持ちはその言葉でしか表せない気がして。
(でも………怖い。)
もし、好きだと伝えて彼が困ってしまったら?
もし、好きだと伝えて彼が離れて行ってしまったら?
そんな悲しい想像が胸の内を燻って、なんだか無性に泣き出したくなってしまった。
私は胸のあたりに小さく拳を作り、ぎゅ、と力を籠める。
瞼を少し伏せれば、涙があふれてしまいそうになって。
私は少しだけ感傷的な気分になってしまった。
「コンビニ行って何買うんだ?」
『えぇっ!?えー…っと、ぷ、プリンですね!?』
「なんで疑問形なんだよ。」
手を伸ばせば触れてしまえそうなこの距離も。何気なく見せる轟さんの優しい笑った顔も。
全部全部、私の心臓を加速させていって。
きゅぅ、っと緩く締め付けられる胸の切なさが苦しい。
私はまたとくり、と胸が高鳴るのを感じながら歩いていた。
ーーーすると。
「園生ちゃん……」
『えっ…』
聞き覚えのない声に名前を呼ばれ、驚いて足を止める。
反射的に振り向けば、そこにいたのは今日話しかけてきた喫茶店の常連さんだった。
どうしてこんなところにいるんだろう。
『あ、あの…なにかーーー』
「園生。」
私が声をかけようとしたら、轟さんによって静かに静止される。
(なんだろう…このピリピリした空気…。)
怖い顔であちらを睨む轟さんと、ニタニタと笑ってはいるもののいつもと雰囲気が違う常連のお客さん。
二人は静かに睨み合っていて、私はそんな二人を交互に見ながら何もできないでいた。
どうしていいか分からず、ぼんやりと突っ立っていたら。
腕をくい、と引っ張られ、轟さんが私を庇うように背中に隠す。
突然のことに「どうしたんですか」と聞こうとする前に、轟さんが口を開いた。
「ーーー園生をつけ狙っていたのはお前だな。」
『え…』
轟さんの、唐突なその言葉に私は言葉が出なかった。
(私をつけ狙っていたのがこの人…?)
(でも、だって。きちんと話したのだって今日が初めてだったのに…。)
どくどくと心臓が警鐘を鳴らす。
私は喉に渇きを覚えてごくりと生唾を飲み込んだ。
「そうだって言ったら?どうだって言うんだよ…」
「お前を警察に突き出す。」
「ひっ……!」
はっきりと、迷いのない口調でそう伝える轟さんに恐れをなした常連さん。
彼は困惑と焦りを露にしながら腕を植物のツルのような形に変貌させた。
「園生ちゃんはオレの方がふさわしいんだよ…お前なんか…お前なんかに渡さねぇ!!!」
『いけないーーーっ!!』
細く棘のあるツルは空を切り、勢いよくこちらに振り落とされる。
その標的が轟さんだと気づいた私は反射的に彼を突き飛ばした。
次の瞬間。
『い゛ッ…!!!!』
ビシィッ!!と鋭い音が聞こえたかと思えば身体中に激しい痛みが走る。
私は自分の体重を支えきれなくなり、ゆっくりと地面に倒れた。
胸からお腹にかけて振り落されたツルは私の身体をいともたやすく切り裂いた。
(痛……ったぁ…)
どくどくとあたたかいもので身体が包まれる。
それが自身の血液であると悟った時、私は死を直感した。
「園生…!!園生しっかりしろ!!ーーー咲子…ッ!!!」
「あ…ああ…あ……あ…。」
ジンジンと痛む身体を揺さぶられ、うっすらと目を開ける。
するとそこには泣きそうな顔をした轟さんが私を抱きしめながら何度も何度も名前を呼ぶ姿があった。