ピッ ピッ ピッ ピッ
(あれ……ここ、どこ………)
確か…私はあの常連さんの個性で身体を怪我しちゃって…。
それで…。
(それで、どうなったんだっけ…)
うっすらと回復していく意識の中、そんなことを考えながら目を開けると、そこには知らない天井が。
どうやら私はベッドで寝ているようだ。
(えっなに、これ……)
ベッドの周りには点滴のポールとか、モニターみたいなものがあって私は少し不安になる。
きょろきょろと視線だけ動かして周りを観察していると、そこに目立つ紅白色の頭を見つけた。
『……とどろき、さん…?』
「!?ーー園生!!」
ガタンッ、と音を立てて立ち上がり私を心配そうに見つめる轟さん。
その表情は、あの時と同じ泣きそうな顔をしていてーー。
私はなんだか申し訳なくなって、へにゃりと笑って見せた。
大丈夫ですよ、って。こんなの全然平気です、って。ーーーそう伝えたくって。
けれど、轟さんは私の顔を見て、更に苦々しい顔をするだけだった。
綺麗で私より大きな手は拳を作っていて、わなわなと小さく振るわせている。
そんな様子を見ていたら、轟さんが重たそうに口を開いた。
「園生…お前……」
するとタイミングがいいのか悪いのか、誰かが病室をトントンとノックした。
轟さんに悪いと思いつつ「はい」と返事をすれば外で「えぇっ!?」と驚く声が漏れ聞こえてきて。
「咲子ちゃん!?意識もどったん!?」
『あ…お茶子ちゃん…。』
来訪者はお茶子ちゃんだったようだ。
大きなお花を片手に心配そうな、泣きそうな顔で私に駆け寄る友達に、思わず笑みがこぼれる。
「よかったー…ほんまによかった〜…もう、うち、轟くんから連絡が来た時ほんまにびっくりして…!!!」
「麗日…気持ちは分からねぇでもないが…声抑えろ。」
「はっ…!」
『ふふ、』
轟さんの声に、ばっと口を両手で抑えるお茶子ちゃん。
私はそんな様子が面白くてつい笑ってしまった。
「咲子ちゃん、もう大丈夫なん?」
『いやぁ、それが私も今起きたばっかりだから何とも…』
「医者の話だと、目が覚めたとしても傷の損傷が治らないうちは退院はまだ先だそうだ。」
『そうなんですか…』
(どうしよう、入院だなんて…。単位とか大丈夫かな…。)
(それにあの常連さんも…またバイト先で会ったりなんかしたら…。)
言いようのない不安が私を包む。
するとお茶子ちゃんが「あっ!」と焦った声を漏らした。
「ごめん、私帰るね。これから夜勤行く準備しないと!」
『そうなんだ。来てくれてありがとう、お茶子ちゃん。』
「ううん、いいんよ!」
そう言って彼女は手をひらひらとさせ病室を出て行ってしまった。
「………」
『………』
轟さんと病室で二人きりになり、異様な空気になる。
(そう言えばさっき何を言いかけたんだろ……。)
轟さんの言いかけた言葉を気にしていたら。
轟さんがおもむろに口を開いた。
「ーーーやろう…」
『えっ?』
「馬鹿やろう!!!」
轟さんの言った言葉が聞こえなくて、素っ頓狂な声を出してしまったら、大きな声で怒鳴られてしまった。
突然のことに、思わず私の肩がびくりと震える。
「なんで俺を庇ったりなんかしたんだ…!!」
『ごめん、なさい……』
見たことのない剣幕に、思わず私はどもりながら謝る。
すると轟さんは、はっとして。
それから下を俯きながらぽつりぽつりと言葉を漏らし始めた。
「お前が倒れた瞬間、頭が真っ白になって……。異変に気がついた夜勤中の爆豪が止めてなきゃアイツをどうしていたか分からねぇ……。」
『轟さん…』
まるで誰かに罪を告白するように重々しい口ぶりで言葉を紡ぐ彼に、私はなんて声をかけたらいいか分からなかった。
「嫌な言い方だが、負傷者を見ることなんて慣れてるはずなのにな。お前が血を出して倒れた瞬間、どうすればいいかなんてまるで分らなかった…。」
「不甲斐なくて悪ぃ…」と乾いた笑いを漏らしながら私に謝罪をする轟さんに、私はぶんぶんと力強く首を振った。
『そんなことないです…!だって轟さんが私をここまで運んでくれたんでしょう…!?それに、何度も名前を呼んでくれた。それだけで…それだけで、私は…!』
「園生…」
あぁ、私もう死んじゃうんだな、って思ったあの時。
私を抱きしめて、何度も何度も轟さんが名前を呼んでくれて。
私はそれだけで…それだけで、とても安心できたの。
それだけで、もう充分だよ……。
『怪我しちゃってごめんなさい…でも…』
『助けてくれて…ありがとう…っ、』
そう言ってにこりと彼に微笑めば、
轟さんは何故か苦々しい表情を浮かべるだけだった。