(………暇だ。)
入院してからはや一週間。
私はベッドに横たわりながら窓の外を眺めていた。
私の病室は四人部屋なんだけど、今は二つベッドに空きがあって。
唯一仲良くしてくれていた社会人のお姉さんも昨日退院してしまった。
…なので話す相手もいない。
私はものすごく退屈していた。
(はぁ…暇だなぁ…学校行きたいよ…)
看護師さんの話では、もうすぐ退院らしいんだけど、明確な日時はまだ決まっていないらしい。
私はそっと目を閉じて小さく溜息をついた。
(轟さん、今頃どうしてるのかな…爆豪さんにも何にも連絡とらずにこんなことになっちゃったし。)
はぁ、と何度ついたか分からない溜息をベッドに落とす。
するとコンコン、という壁をノックする音が聞こえて、ピンク色のカーテンの奥に人影が見えた。
看護師さん…かな?
『はーい。』
「園生…調子はどうだ?」
『と、轟さん…!?』
やって来たのは看護師さんではなく轟さんだった。
何の前触れもなく突然現れた好きな人の姿に、思わず声が裏返る。
「元気そうだな。園生」
『は、はい!…あ、でもちょっとだけ退屈してました…。』
正直にそう言えばふ、と微笑まれる。
私は一気に舞い上がってしまった。………が、
(あっ…しまった。)
ふと、今の自分の状況を思い出す。
この間は気がつかなかったけれど、私今病院着なんだよね…。
(なんだかみられるの恥ずかしいな…)
こっそりと、布団を小さく握りしめる。
私は顔に熱が集中するのを感じながら俯いた。
「なんだ、顔赤いぞ?熱でもあるのか…?」
『い、いえ…!熱なんて…全然!!』
ブンブンと手を振って、轟さんの言葉を否定する。
私は「ははは…」と笑って誤魔化すことにした。
(…というか…あれ…?)
『ーーーあの、轟さんちょっと疲れてます?』
「?なんでだ?」
『いえ、なんとなくいつもより元気がない感じがしたから…』
どことなく、いつもより元気がないように見える。
そう指摘すれば、彼は一瞬ピタリと動きを止めて。
しん、と病室が沈黙で包まれた。
(あれ…なにか触れちゃいけないことだったかな…)
『わ、私の勘違いかもしれませんね!あはは…』
「園生。」
私の引きつった笑いを、真剣みを帯びた轟さんの声が制止させる。
一瞬かち合った目と目。
その目はやはり私の知っている彼のものではない気がして。
『?あの……?』
「園生…実はあの日…俺は…」
重たそうに口を開く轟さん。自然とこちらにも緊張が走る。
ごくりと生唾を呑みながら彼の言葉を待っているとーーー。
コンコン、
『!』
そこへまた壁を叩く音が聞こえてきた。
反射的に轟さんの方を一瞬だけちらりと見る。
しかし彼は視線を落とし、もう口を閉ざしてしまっていた。
(なんだったんだろう…)
もう話す気はないらしい。
そう察した私は私はカーテンの奥の人物を招き入れることにした。
『ーーー…はい、どうぞ』
「おせーわ、はよ入れろや」
『ば、爆豪さん!?』
そこにいたのはもう一人のお隣さん、兼お料理の師匠の爆豪さんだった。
突然の来訪に私のテンションも一気に上がる。
『なんで私がここに入院してるって分かったんですか!』
「丸顔に聞いた。」
『ま、丸顔…?』
誰だろう…。
誰のことか分からず、ぽかんとしていたら轟さんが「麗日のことだ。」と教えてくれた。
な、なんだってー!?
『ちょっ…お茶子ちゃんに対してなんですか、その失礼なあだ名は!!』
「あ?」
『お茶子ちゃんは私の大事なお友達なんですー!』
「知るかバカ女。」
『あっ!またバカ女って…!!』
「実際馬鹿なんだしバカ女でいいだろーが。」
『なにをー!?!』
「……………」
わいのわいの。
私たち以外病室に誰もいない事を良いことにぎゃんぎゃんと吠える私。
それを爆豪さんは冷めた声で返し、馬鹿にした目で私を見下ろす。
………けれど轟さんは一向に口を開こうとはしなかった。
『ーーーもう!一体何しに来たんですか!爆豪さん』
「たまたま寄っただけだ。特に意味なんかねぇよ。」
『あーそーですかっ!』
流石に腹が立ってぷいっ、とそっぽを向く。
すると爆豪さんはいきなり「めんどくせー。帰る」と言い出し私に背を向けた。
『えっ…もう帰っちゃうんですか?』
「これから勤務なんだよ。」
『そんなぁ…』
「……俺も勤務だった。悪ぃ、園生俺も帰る。」
『轟さんまで…』
二人一気に帰ってしまうなんて、なんだか寂しい。
私はぽっかりと胸に穴が開いたような、空しい気持ちを抑えてひらひらと手を振るのだった。
***
「…お前、なに嘘なんかついてンだよ」
「なんのことだ」
「とぼけんな」
"テメェ嘘下手くそなんだよ。"
そういう爆豪の目はいつもより吊り上がって見えた。
俺はそれを無視し、胸の奥につかえていた疑問を爆豪にぶつける。
「……言わないのか?」
「何を」
「お前が園生を助けたってことだ」
園生のあの様子からして、爆豪が園生を助けたことをあいつは知らないんだろう。
俺が園生を助けたんだと、園生は誤解している。
それが俺をひどく鬱々とさせていた。
「ンなもん誰が助けても変わらねぇだろ…」
「あいつは俺に"助けてくれてありがとう"っつったんだ。…本来それはお前が貰う言葉の筈だろ。」
知らずに俺に礼を言う園生にも、それを良しとしている爆豪にも怒りとは違う感情が湧いてくる。
知らず知らずの内に怒気を孕んでいく俺の言葉は間違いなく爆豪に届いているはずなのに、爆豪は冷めた表情をしていた。
どうして自分がここまで怒(いか)っているのか分からない。
…けれど俺には一つだけ、爆豪に対して尋ねたいことがあった。
「…なぁ、爆豪。」
「あ?」
「ーーーお前もアイツの事、好きなのか?」
爆豪の足が止まる。
俺はただ、静かに爆豪の揺らめく瞳を見つめていた。