ハートの主張

「ーーーお前もアイツの事、好きなのか?」
「………………は?」

いま、コイツはなんて言った?

"アイツのことが好き"…?



(いや、それより………。)

たったいま、轟はお前"も"と言った。

その些細な言葉を爆豪は聞き逃さなかった。

その言葉に含まれた轟の意思を汲んで、爆豪ははた、と立ち止まる。

(コイツ、あのバカ女の事好きなんか…)

なんとなく予想はしていたが、いざ本人から聞かされると流石の爆豪にも衝撃が走る。

爆豪の紅い瞳がユラユラと揺れたが、轟はただ真っすぐにそれを見つめていた。



「ーーーどうなんだ。」
「どうもこうも…あんな口ウルセェバカ女なんざ何とも想っちゃいねーよ。」

"馬鹿かテメェわ。"

口を尖らせ、不満を露にしながら爆豪がそう言えど、轟は何も言わなかった。

「…………」
「…………」

まるでお互いの腹の内を探り合うかのような、嫌な沈黙が二人を包む。

爆豪はその空気を切るように「ケッ」と声を漏らし、踵を返した。



***



"あっ!またバカ女って…!!"

"なにをー!?!"



(…うるせー女。)

カーテンで閉め切った、薄暗い自室にて。

ベッドに横になりながら天井をぼぅ、っと見つめる。

爆豪は、額に手を当てながらゆっくりと咲子の声を思い出していた。

(………なに怪我なんかしてんだ、あのバカ。)






ーーー夜勤パトロールをしていたあの日。

たまたま自宅付近にまで足を伸ばしたら、どこかで何かを殴りつけるような鈍い音と鼻を強く刺激する血の匂いがして。

ただ事ではない事態に、気持ちが逸(はや)るのを感じながら足を向ければ。

いつもは何かと煩い隣の女が血だまりの中でぶっ倒れていた。



(………チッ)

何度思い出しても胸糞悪い。

のほほんと平和ボケしたあの顔がいつもより白く見えて。

包丁を握っていたあの小さな手は弱々しく脈を打っていた。

………何度思い出しても、本当に胸糞が悪い。



それでも…。



"ば、爆豪さん!?"

病室を来訪した時に見せた、咲子の嬉しそうな顔がいつまでも脳裏に残っていて。

自分の名前を呼ぶ楽しげな声が耳から離れなくて。

その後の何気ないやり取りさえ、特別なものに思えてしまった。



(…………気持ち悪ィ。)



なんだ、アイツは。

なんだ、この感情は。



心臓を圧迫される感触が気持ち悪い。

息も浅くて頭の中で何度も何度も咲子の姿が浮かぶ。

彼の胸の内を脈打つ心臓の鼓動は、確かに爆豪に異変を知らせていた。