「ーーー園生、体調は平気か。」
『ちょっと傷は痛みますが全然平気です』
爆豪にあんなことを聞いた翌日。
俺はまた園生の見舞いに来ていた。
園生の病室は相変わらず他に誰もいなくて、ほぼ個室となっている状態だった。
『あの…、こんな毎日お見舞いに来ていただいて…いいんですか?』
「ああ、今のところ時間には余裕があるしな。」
最近はヒーロー業より午前中に終わる撮影やインタビューの仕事の方が多いおかげか、時間には余裕がある。
(…皮肉なもんだ。)
ヒーローとは関係ない仕事の方が多い現状は変わらないまま。
けれどそのおかげで園生と話が出来る時間が確保できるっていうのはありがてぇ。
俺は園生に心配をかけまいと微笑んで見せたが、それでも園生の顔は少しだけ曇っていて。
俺は話題を変えようと「なぁ、」と優しく声をかけた。
「園生、なにか食いたいもんないか?」
『食べたいもの…ですか…?』
「ああ」
「毎日病院食で飽きてんだろ」と俺が声を重ねれば、園生は照れ臭そうに笑った後に「はい」と肯定した。
『うーん…パッとは思いつかないなぁ…』
「なんでもいいぞ」
『うーん…あ、そうだ!抹茶パフェとか…白玉あんみつとか、甘味が食べたいです!』
そう言ってへにゃりと微笑む園生。
そんな園生に俺の心臓がとくりと跳ねる。
(……………可愛い。)
園生が俺の名前を呼ぶ度、園生が俺に微笑みかける度、
心臓がとくとくと大きく脈打ちだして。
逃げたいような、かと思えばずっとそばにいたいような。そんな気分にさせられる。
(幸せだ…。)
園生の近くにいるだけで心が安らぐ。
俺は幸せをかみしめるようにそっと目を伏せた。
「退院したら連れていってやるよ。」
『ええっ!本当ですか!嬉しい…』
小指を立てて約束だ、と突き出せば園生は嬉しそうに自分の小指を重ねた。
『約束ですよ?』
「ああ。」
よっぽど嬉しいのか、満面の笑みを見せる園生。
(なんか…花みてぇだ。)
春に咲く白っぽい花を連想させる園生の笑顔に、また一つ心臓が高鳴る。
その笑顔から目が離せなくて、園生をじっと見つめていたら、園生が「あ、そういえば」と明るい声を出した。
『あの…轟さん、前私が倒れた時、名前で呼んでくれましたよね。』
「名前?」
『はい。私のこと、咲子って。』
「ーーーあ。」
下を俯きながら、遠慮がちに言葉を紡ぐ園生。
それを見て俺は、あの日の自分を思い出した。
"園生…!!園生しっかりしろ!!ーーー咲子…ッ!!!"
(あぁ、そうだ。俺はあの時…)
園生のことを咲子って…。
頭が真っ白になってつい呼んじまったんだった。
「…悪ぃ、お前のことを呼んでいるうちについ出ちまった。」
『あっ、いや!べつにそんな…!責めてる訳ではなくて…ですね、』
あんまり親しくない奴に名前を呼ばれる、ってのは女にとって嫌なことかもしれねぇ。
俺は「すまねぇ」と付け加えたが園生はブンブンと頭を振って俺の言葉を否定した。
『そうじゃなくてですね…っ、あの…なんていうか…これからも、出来たら"咲子"って呼んでくれないかな…なんて…。』
「…?嫌じゃないのか。」
『ええっ!?い、いやなんかじゃ全然ないです!!むしろ…その方が嬉しい、っていうか…!』
「分かった、じゃあ俺のことも焦凍、って呼んでくれ。」
『ええええ!!!』
「一度でいいから、園生に…咲子に焦凍って呼んでもらいたかったんだ。」
(そうしたら、アイツよりお前に近づける気がするから…。)
『えっと……じゃあ、轟、くん……。』
「?下の名前は呼んでくれねえのか?」
『そ!それは…っ緊張しちゃうのでまた今度という事で…!!』
何故か顔を真っ赤にさせながら目を背ける咲子。
轟はそれを見て何故か満たされるような気分になったのだった。
…………………
「咲子。」
『な、なんでしょうか…轟くん…。』
「あぁ、やっぱいいな、こういうの。」
『そ、そうですか…』
(も、もう…!轟くんてば私のことも知らないで…ッ!!)