コンコン、
『はい、どうぞ』
「咲子ちゃん、元気にしとる!?」
『お茶子ちゃん…!会いたかったよ〜…!!』
控えめなノックが二回鳴り、声をかければやって来たのはお茶子ちゃんだった。
「ごめんね…なかなかお見舞い来れんくて…」
『ううんそんなことないよ…!来てもらえてうれしい!』
ほぼ私の個室状態となっている病室に、私と彼女二人の歓声が上がった。
ハイタッチをしながらにぎにぎと手を握り合い、二人でにししと微笑み合う。
「今日はオフやからゆっくり咲子ちゃんとお話しできるよ!」
『えっ本当?嬉しい〜…ずっと暇だったんだ!』
こっちへいおいで、と言わんばかりに腕を広げてくれるお茶子ちゃん。
ノリ良くぽふんっ、と腕の中に納まればふわりといい匂いが私の鼻腔をくすぐった。
"私って良い友だち持ったなぁ、"なんてことを思いながら彼女の柔らかさに身を委ねていた、その時。
彼女の奥に誰かいることに気付いた。
その人物とぱちりと目が合う。
「こ、こんにちは…」
『こんにちは………えーーっと…?』
「あっ…咲子ちゃんはじめましてやね!こちらデクくん。」
「は、初めまして!緑谷出久です。…勝手に来ちゃってごめんね」
『いえいえ…!わざわざありがとうございます』
お茶子ちゃんとともに現れたのは髪が緑がかった私と同い年くらいの男の子。
困ったように笑い、軽く頭を下げる彼はなんだかいい人そうに見えた。
…お茶子ちゃんと一緒に来た、ってことは彼もヒーローなのかもしれない。
(ん…待てよ…"デク"って……たしか、どこかで……)
『"デク"……?』
「はい?」
「んふふ…っ」
もう一度彼の愛称(?)を呼べば、どこか不思議そうな顔で私を見つめる緑谷さん。
どこかで見たことがあるような気もするけれど、"緑谷出久"なんて名前もきいたことがない。
("デク"……"デク"……)
どこかで聞いたことがあるその単語を口にして、しばらく考え込む。
すると、まるで頭の中で豆電球に光が灯ったようにピーンと閃いた。
『あーーーー!!!お茶子ちゃんのスマホでまえーー』
「わーーーーーー!!!」
「えっ…え?」
私の声に素早くお茶子ちゃんが反応する。
お茶子ちゃんは私が言い切る前に口を手で覆い「しーっ!!」と人差し指を立てた。
(この顔……それに"デク"って名前…どこかで聞いたことがあると思えば!…前っ!)
ーーーそう。
それはお茶子ちゃんが轟くんを好きなんじゃないかと勘違いしていたころの話。
私が轟くんのことが好きだと白状してた時、彼女は「うちの好きな人はこの人、」と教えてくれたのがこの"デク"さんだったのだ。
「ーーーえっと…麗日さんこれは一体…。」
「な、なんでもないよぉ!??なぁ、咲子ちゃん!!」
『う、うん!なんでもないです!!』
声を裏返しながら「なんでもない!なんでもない!」と誤魔化す彼女と一緒に、私も誤魔化す。
すると少しだけ苦笑いをこぼして彼は「そっか」と有耶無耶にしてくれた。
(そっか…お茶子ちゃんが好きな人ってこの人のことなんだ…。)
改めて、頭の先から脚の爪先までじっくりと観察させていただく。
緑がかった黒髪。女の子に負けない大きな目、優しそうなそばかす。
(うん、やっぱり優しそうな人だ。)
そんな風に見つめていればまた目が合って。私は思わず「ふふふ」と微笑んだ。
***
「えっと…ところで麗日さん、なんで僕、ここに連れてこられたのかな。」
「ふふふ…それはね…!咲子ちゃんが轟くんのお隣さんやから」
「轟くんの……って。ええええ!!?君が…!?」
『?』