直感と憶測

「轟くんの……って。ええええ!!?君が…!?」

『?』



ーーー 週の真ん中、水曜日。

珍しい完全オフの今日、突然麗日さんから「これから病院にまで来てほしい」と連絡があって。

彼女に促されるまま後をついていけば、僕らと同い年くらいの女性を紹介された。

訳も分からずに自己紹介をすると、彼女は僕のことを知っていたようで。



花のように笑う彼女は僕から見てとても好感の持てる女性だった。



(…けれど、)

まさか…

まさか…。



(まさか彼女が轟くんの好きな"お隣さん"だなんて…!!)



…緑谷出久は咲子の名前こそ知らなかったが、その存在は幾度となく轟の口から耳にしていた。

食事をよく作ってくれる、部屋が隣の女性。

今の自分について悩む友人の背中を押した人物。

色恋沙汰には縁がないだろう、と思っていた友人に、恐らく初めて出来た片思いの相手。



その相手が目の前にいる園生咲子だとは。

疑問符が飛び交う頭の中、確認の意を込めてお茶子の方へ出久が視線を向ければ。

お茶子はにこにことした表情で大きく一度頷いた。

…どうやら自分の考えは正しいらしい。



(園生…咲子さん…)

(この子が…轟くんの好きな人)






『ーーーえっと…何か?』
「あッいや!別になんでも…ハハ…」

こてん、と首を傾げる咲子に出久は慌てて「なんでもない」と誤魔化す。

咲子は少し不思議そうな顔をしつつも「そうですか」とこちらの意図を汲んでくれた。…確かに優しい人だ。

にっこりと微笑みかける彼女の姿を見ると、なんだかほっとする。

(轟くんもこんな気持ちなのかな…)



そんなことを考えていたら、咲子が「あっ」と声を漏らした。



『ーーーねぇ、お茶子ちゃん。爆豪さんから”丸顔”って呼ばれてるって本当?』

「うん………って、んん!?咲子ちゃん、爆豪くんとも知り合いなん!?」

「ええ!?かっちゃんとも…!?」



咲子の口から不意に飛び出た同期の名前に、お茶子と出久は目を丸くさせながら驚愕する。

すると咲子はなんでもない、といった具合に「爆豪さんもお隣さんなんです。」と笑って言った。



『この間お見舞いにも来てくれたんですよ!…まぁ、すぐに帰っちゃったけど…。』

「「かっちゃん(爆豪くん)がお見舞い!?」」






上手く状況が飲み込めずぽかん、と口を開けて呆ける出久。

そんな出久の様子を見て、先に我に返った麗日が「咲子ちゃんちょっと待っててー!!」と廊下へと出久を引っ張り出した。






誰もいない廊下で二人、恐ろしいものを見たと言いたげな顔で互いを見つめ合う。

そんな中、先に口を切ったのはお茶子の方だった。



「で、でででデクくん知っとった…!??」

「いやいやいやいや!!園生さんのことも聞いてないし…っていうか卒業してからかっちゃんと連絡とってないよ!!」

ブンブン!!と手を振り否定する出久。

そんな彼にお茶子はどこか視線を彷徨わせながら「そ、そっか…」と強張った声を漏らした。

お茶子の反応も、無理もない。

"あの"、粗暴で粗野でヒーローの癖に民間に対して優しい素振り一つ見せない彼が、ただのお隣さんに対して"お見舞い"だなんて。






(園生さんだから………行ったのか?)






「それって…もしかして…」

「?どしたんデクくん?」

「いや……………それはないか。」



ははっ、と乾いた笑い声を漏らす出久。

しかし彼は後にその直感ともいえる推測が正しいものであることを知るのだった。