『いらっしゃいま……あ、お茶子ちゃん!』
「えへへ来ちゃった〜」
学校終わりのバイトの日。
テーブルを拭いていたらお客様の来店を告げるベルが鳴って。
ご案内しなきゃ、と入り口にまで行ってみれば、見慣れたお友達の姿があった。
「もう身体は大丈夫なん?」
『うん…お蔭様でげんきげんーー』
「元気には見えんよ!?」
口元を上げ、軽く拳を作り元気だよ、ってアピールをしようとしたら。心配そうな顔をしたお茶子ちゃんに盛大に突っ込まれてしまった。
あはは、と笑顔で誤魔化しとりあえずお茶子ちゃんにはカウンターのいつもの席に座って貰う事にする。
(幸いお客さんも少ないし、このままちょっと話すくらいだったら大丈夫かな。)
カウンターの内側に戻り、お茶子ちゃんと向かい合う。すると、彼女は真ん丸の目を細め、じぃ、とこちらを見つめていた。
な、なんだか怖いな…。
「よくよく見たら隈とかもひどいし…な、なんかあったん…?」
『そ、そんなにひどい?』
「うん。」
『…………うーん…。』
迷いなく肯定するお茶子ちゃんに、思わず私も押し黙る。
私はぽつりぽつりと口を開いた。
『お茶子ちゃん…最近、轟くん、てどうかな…』
「"どう"と言うと…?」
『その…元気ない、とか…ぼーっとしてる、というか…』
なんて言ったらいいのかな、と付け加えて頬をかくとお茶子ちゃんは不思議そうな顔で「轟くんが?」と返した。
「事務所違うから何とも言えんけど、普通やと思うよ…?」
『…そっか』
お茶子ちゃんの口から出た"普通"と言う言葉にため息が出そうになる。
(私の思い違いだった…のかな。)
きゅっ、と手を握り目を伏せる。
やりきれない気持ちをなんとか胸の内に抑えてにこり、と微笑めば再びお茶子ちゃんが心配そうな声をあげた。
「咲子ちゃんにはそんな感じに見えるん?」
『そんな感じに…っていうか…私轟くんに避けられてるような気がして…』
「えぇっ!?」
『わ、私の勘違いかもしれないけれどね!なーんて…はは…』
(私…いま、うまく笑えているかな…)
ぎこちなく微笑む私と信じられない、という表情のお茶子ちゃん。
なんとか笑顔を保ってはいたものの、私は内心わらわらと心の中の何かが壊れていくような感覚が私を襲った。
そう。
最近…轟くんに避けられているような気がするのだ。
そう思い始めたのは轟くんが病院に迎えに来てくれたあの日から。
あの日から何を尋ねてみても「そうだな、」とか「あぁ…」としか返してくれなくて。
元から口数の多い人ではないってことは分かっているんだけど、なんだか不安になる…。
『最近、ご飯とか作っても、"明日はいらねぇ"とか"今日は気分が悪ぃから飯は大丈夫だ"って言われちゃうし…。私、何かしちゃったかなって…。』
「うーん…。」
ここ最近の轟くんの様子と、自分の胸の内に秘めていた思いを話せば、お茶子ちゃんは難しい顔をしながら唸った。
腕組をしながら目を瞑る彼女に段々と不安が濃くなる。
「でも、轟くんのことやから、なんかあるんとちゃうかなぁ…」
『"なんか"…?』
"なんか"って、なんだろう。
そんなこと、轟くんがいないこの状況で一人考えても意味がない事なのかもしれない。
けれど私はあの日の轟くんの背中を思い出しながらため息を吐くことしか出来なかった。