『はぁ〜…。』
「はい、今度はどうしたんですか園生サン」
『えっ!?いやぁ…ちょっと…。』
「もしかして偽ショートの事?」
「いや〜もしかしなくてもそうでしょー」
『うっ……。』
大学の図書館のちょっとしたフリースペース。
今日は友達二人と一緒に勉強をしにここへ来たんだけれど…。
(轟さんのことばっか考えちゃって全然勉強に集中できない…!)
早いもので来月には期末テストがある。
まだまだ時間はあるかなぁ…なんてお気楽に考えていたけれど、科目数も多いし今から勉強しなくちゃ。
(って、思ってきたのに…。)
これだもんなぁ…。
自分の集中力の無さにがっくしと肩を落とす私。あぁ…テストどうしよう…。
私は絶望したまま持っていたシャーペンをころりと転がしてはぁ、と溜息を吐いた。
こつん、と額が冷たい机に触れて、思い出すのは少しだけひんやりとしたあの人の右手。
(轟くん…)
どうしてご飯を食べてくれなくなっちゃったんだろう。
どうして会ってくれなくなっちゃったんだろう…。
疑問と不安がないまぜになって渦を巻く。
私は友人が「お〜い生きてるか〜」と頭をつんつんつつくのも無視してぼんやりとお茶子ちゃんの言葉を思い出していた。
"轟くんのことやから、なんかあるんとちゃうかなぁ…"
("なんか"か……。)
お茶子ちゃんに相談したあの日。お茶子ちゃんは確かにああ言った。
なんか、って一体なんだろう。
私何かしちゃった?変なこと言ったりしちゃった?
あの日からどんなに考えても轟くんのことが分からない。
(轟くんの気持ちが知りたいよ…。)
『…………………はぁ〜…』
「これはこれは…」
「重症ですねぇ…。」
溜息を吐く私に向かい、ふむ。と顎に手を添える友達二人。
そんな二人を無視して沈んでいると、一人が「やっぱりさ〜」と口を開いた。
「咲子をひんにゅーだとは言わないけどさ…男はやっぱ乳なんだよ乳!!」
『ちッ…!?』
「これ、お下品。そして流石に失礼でしょ。」
くわっ!と私に詰め寄る友人を、もう一人が窘める。…けれど友人にはそんな声は届いていないようで。
友人はここが図書館であることも忘れ胸について熱弁し始めた。
「男は皆巨乳が好きなんだよ…咲子、ソイツのことは諦めな。あんたの乳じゃ無理だ。」
『う……ッ!胸のことはいま関係ないよっ!それに轟くんはそんな人じゃ…ッ』
「いやいや〜…それは咲子の願望だよ…。男は皆クリエティみたいなのが好きなんだって…。」
『?"くりえてぃ"…?』
誰、それ。
突然出てきた聞き慣れない単語にぱちぱちと瞬かせる。
そんな私の反応を見た友人たちから「あぁ…そっか咲子ヒーロー疎いもんね。」と呆れに近い同情の目を向けられた。
はぁ、と小さく溜息を吐いて、胸について熱弁していた方の友人が液晶画面をこちらに向ける。
「この人!うちらと同い年なのに乳デカいし美人なの!男の理想ってヤツ!」
「乳のことまだ言うのかアンタは」
『うわ、本当だ美人…!!』
"クリエティ"の名で検索されたインターネットのページには、長い黒髪のポニーテールが良く似合う美人さんが載っていて。
私はその透き通るような黒曜色の瞳や髪、そして女性らしいラインの身体つきに釘付けになってしまった。
「こんな美人いたらまず勝てないよね。合コンとか絶っ対誘いたくないわ。」
「確かに!好きな人とか被りたくな〜い」
『あはは、そうだね。』
おしとやかそうだし、綺麗だし上品そう。
(こんな美人さんだったら、轟くんとお似合いなんだろうな…)
そんなことをふと考え、思わず自嘲する。
こんな時にまで轟くんのことを考えちゃうなんて。
(それにしても…クリエティさんか。)
こんな綺麗な人、一生縁がないんだろうなぁ…。
私はこの時、そんな風に思っていたんだ。