08


上鳴とあの子が付き合っているのはまったくの嘘。

上鳴電気と名字名前はまだ付き合っている。

………そんな噂がどこからか流れてきた。



(…誰よ、こんな噂流したの…。)

きっと電気とあんな風に別れた前の私だったら、そんな噂を聞いてほっと胸をなでおろしていたことだろう。

しかし今の私は頬づえをつきながらため息をついていた。

『どうしよう…。』

(電気にあんな嘘ついちゃった。好きな人なんていないのに…。)



ーーーあの日。

私は電気と別れる決意を固め、彼と対峙した。

新しい彼女……C組の女の子の話をして、別れよう、って。

けれど、問い詰めても問い詰めても電気は何も答えてくれなくて。

…だからヤケになって言ってしまったんだ、好きな人が出来た、なんて嘘。



(あの時…電気、変な顔してたなぁ…)



"はは、そんな…ジョーダン…"

"本当に別れんの?"

"俺と別れて後悔とかーー"



『はぁ〜…………』

私は盛大に溜息をついてから机にうつ伏せになる。

私の好きな人が出来た、と嘘をついてしまった時。

あの時の電気は、いつものお茶らけた雰囲気ではなかった。



(あんな顔、初めて見た。)

引きつった口角に、戸惑いを隠しきれていない表情。

"信じたくない、信じられない。"

そんな風に私に言っているような気さえしてしまって。



(付き合ってないって噂は本当なのかな…。でも本当だったとして私、これからどうしたら……)



『はぁー…』
「ーーー名前。」
『わ!』

うつ伏せになってはぁ、と沈んでいたら。

急に名前を呼ばれて慌ててがばっと起き上がる。

そこにいたのは響香ちゃんだった。



『な、なに響香ちゃん。』
「普通科の子が呼んでるよ」
『え?』

ちょいちょい、と響香ちゃんが指さす方へ視線を移す。するとそこにあったのはーー

『あっ…』
「………」

C組のあの子の姿だった。



***




所変わって人気の少ない踊り場に移動した私たち。

私は今の展開に正直戸惑いを隠せないでいた。



(どうしていきなり呼び出しなんて…。)

胸の内を、疑問と焦燥感が燻る。

けれど、こんなタイミングで呼び出しを喰らうなんて嫌な予感しかしなくて。

『え、と…何か…』

遠くの方で聞こえる生徒たちの喧騒が私たちを包む。

私は生唾をごくりと飲んでから口を開いたのだった。


「ーーーごめんなさい。」
『えっ…』
「私…上鳴くんのことが好きで、嘘の噂流しちゃったの。」
『え!?』

(嘘の、噂…?)

彼女の言ってる意味がよく分からなくて私は思わず固まってしまった。

(噂は彼女が流したものだったの…?じゃあ、電気は浮気なんてしていなかったの…?)

彼女の告白に、動揺を隠せない私。

そんな私を見て、彼女は口を一文字にして俯いてしまったのだった。