名前で呼んで?

※天喰くんお誕生日おめでとう!!



『天喰くん、お誕生日おめでとう!』
「ありがとう、名字さん…」

今日、三月四日は同じクラスの天喰くんの誕生日だ。

名簿番号順の席でたまたま隣になった私たちは二年ほど付き合いを続けている。

彼と私は仲良しとまではいかないけれど誕生日を祝わないほど他人ではない。

私は教室について早々、隣の席の彼に声をかけた。

『あれっ、誕生日嬉しくない?』
「いや…嬉しい…。」

誕生日だと言うのにどことなく暗い表情の彼。

私が天喰くんの顔をそっと覗こうとすれば「まっ、眩しい…!」と目を逸らされてしまった。

"眩しい"…?



『ーーーえと…今日はくもりだけど…?』
「どうしてミリオにしろ、名字さんにしろ眩しいと言う自覚がないのだろう…」

くっ…と肩を震わす彼。

一体どうしたものか…。

(あっ…!)

彼になんて言ったらいいか分からずうーん、と考えあぐねていると、

この時期特有のいい話題を思いついた。



『そういえば先輩たちはもうすぐ卒業だね。』
「うん…そうだね…」
『来年私がまた"おめでとう"を言う時には私たちも卒業の時期なんだ…』

そう呟けば、彼は寂しそうに笑った。

私たちも来月には三年生。最終学年になる。

(私たちヒーロー科はインターンが主になるから座学は少なくなるけれど、これからもずっと天喰くんの隣で授業を受けられたらいいのにな…。)

いつかは私たちも卒業する。

そんな現実から目を背けるように、私はそっと瞳を伏せた。

…すると暫く何かを考え込んだ様子の天喰くんのほうから「あのさ…」声をかけられる。

「た、誕生日…のことなんだけど…。」
『うん?』
「プレゼントって、貰ってもいいかな…」
『えっ!』

しまった。

プレゼントなんて用意してない。

天喰くんの誕生日のことは前々から知ってたし、お祝いしようとは思っていたのだけれど

人見知りで、ねじれちゃんに「ノミの心臓」とまで呼ばれてる彼にプレゼントなんてしたら

「申し訳ない…」とか「死にたい…」って遠慮してしまうと思っていたから。

私は敢えて何も用意してなかったのだ。

(どうしよう…)

鞄をごそごそと探しても、天喰くんが喜びそうなものが見つからない。



『ごめんっ、いまお菓子しか持ってないの…』
「いや、お菓子はいらない…」

せめて持っていたお菓子でも…と思ったんだけれど本人に却下されてしまえばそれも無駄な訳で。

えっと、えっとと困っていたら天喰くんがそっとこちらを見ながら小声で何か喋った。



「ーーで欲しい…。」
『えっ?』

「名前で呼んで欲しい。」

(…名前?)



か細い声で紡がれた言葉は確かに私の耳にまで届いた。

けれど私は一瞬意味が分からずぽかんとしてしまって。

天喰くんはというと、言ったことを後悔しているのか、「あぁ…やっぱりいい…緊張して死んでしまう…」となにやら呟いている。

(なんか…かわいい…。)

そんな彼を見て、思わず頬が緩む私。

私は少しだけ意地悪をしたくなってにやにやと彼に近づいた。

『じゃあ、今日から環くん、って呼んじゃおうかな!』
「う、…うん」

にやにやとしながらそう宣言すれば、こくりと頷かれる。

私はその痩せた頬をツンツンとしたい衝動を抑えつつ、彼に微笑みかけた。

ーーーすると。



『ふふ、なんか顔が真っ赤だよ、環くんって意外と可愛いね。』
「……の方が…」
『…えっ?』

「名字さんの方が…可愛いと、思う…。」
『…っ!』



そういう彼は、それこそ茹で蛸のように真っ赤な顔をしていて。

私は彼のそんな言葉に今度こそとくりと胸をときめかせてしまうのだった。



+++



『そ、そういうのはずるいと思う…環くん、卑怯…っ!!』
「!卑怯と言われた…ヒーロー科なのに…死にたい…」
『お誕生日に死ぬのはヤメテ!?』