『はぁ〜…働いた…』
「お前今日オフだろ。」
『家に持ち帰った残業があったんです〜』
名字名前、入社一年目。オフであるはずの今日もいっぱい働きました。
月火水木金と、毎日毎日会社へ行って。パソコンと睨めっこして。
分からないことも不安なことも毎日毎日増えていって。…けど頑張るしかなくって。
時々自分が情けなくなってしまう。
けれど…。
けれど、今日は週末。週末の土曜日。
私のヒーローに会える土曜日だ。
(休日くらい、みんなのヒーローを独占したってかまわないよね。)
そんな独り言を心の中で漏らして、私はソファでくつろぐ勝己の肩に頭を寄せた。
『ーーーなんかさー、良いことがない日って勝己どうしてる?』
「ア?ンだよいきなり…」
『んー…最近いい事ないからさ、私…。』
分からないことがいっぱいで泣きたい時とか、上司に怒られて消えてなくなりたい時とか。
そういうのが日常的にある中で、勝己だったらどうするのかなーって。
そんな風に尋ねてちらっとソファでくつろぐ彼を盗み見る。
すると彼はしばらく無言を貫いてから、淡白な反応を見せた。
「ンなもん、やるしかねぇだろ。」
『ですよねぇー…』
自分にも他人にもストイックな姿勢を貫く彼は、いつも的を射たアドバイスをくれる。
けれど私はそれを聞いて脱力してしまうのだった。
"やるしかない。やらなきゃ、いけない…。"
やっぱり勝己もそう言うんだ…。
私が悩みとしてこういう事を話すと、「入社一年目なんてそんなもんだよ。」なんて、周りの人はそう言って笑うけど。
その一年目からしてみれば社会なんて分からないことだらけで。
良いことの方が少ない痛くて泣きたい毎日で。毎日いい事ばかりなんかじゃないけれど。
私のヒーローは…勝己は、すぐに立ち上がって走って行っちゃうんだなぁ…。
『…ずるいっ』
「はぁ?」
『勝己が格好良すぎてずるいっ!このヒーローめ!』
「何言ってんだバカか。」
むーっと頬を膨らませて胸元へ突進すれば、幾らか柔らかな声色の悪口が帰ってきた。
こういうのも本当にずるい。…ずるい。
確かにいい事ばっかじゃないけどさ、確かに泣きたい毎日だけどさ。
どんな時でもすぐに立ち上がろうとする勝己の姿とか見ちゃったら、私ももう頑張るしかないじゃん。
お局さんにいびられて痛くても、居づらい会社で苦しくても、私、頑張るよ。
ーーーとりあえずのところは、私も折れないように頑張るから。
だから、さ…
『…勝己、』
「あ?」
『…来週も勝己を充電していいですか…?』
週末の、私だけの限定ヒーローに会いたくて。
私はそんなおねだりをしてみた。
…すると勝己は、はぁ、と盛大な溜息をこぼしてやれやれと言いたげな顔をしている。
(うっ…流石に面倒くさい女だったかも…)
『で、出来るだけでいいから…ね?』
「週末だけ会うの面倒くせぇ。もう一緒に住むか。」
『…え?え?』
ローテーブルに投げ出されたのは賃貸住宅の冊子複数。
えっもしかして結構前から考えてくれてた…とか?
なにそれ嬉しい。
「ーーーなにニヤニヤしてんだよ」
『んふふー別にー』
私はにやける顔を冊子で隠しながらソファでくつろぐヒーローの頬にキスを落とした。