深緋色に恋して

『ほんと…綺麗な色。三白眼なのがもったいないね』
「あ?喧嘩売ってんのか」

頬杖をつきながらぼそりと呟いた私の言葉に勝己が反応する。つんつんと人差し指で目元をつつけば抑揚のない声で非難された。テレビ画面の青白い光を反射していた眼球が、こちらを向いて私の姿を映しだす。

『勝己の目の色、こんなに綺麗なのに黒目の部分がこんなに小っちゃいんだもん。全然見えない…』
「あんまジロジロ見んな」

勝己の短気な性格は人相によく現れている。高校時代よりかは大分マシになったけど、穏やかな性格をしているかと聞かれれば肯定は出来ない。救助した子どもにはよく泣かれるし、女性のファンも少ない。

…私としては嬉しい限りだけど。



「つーかこの映画観たいっつったのお前だろ。ちゃんと観ろや。」
『えーこっちの方がいい。』

リモコンでげしげしと私を小突く勝己を無視して、距離をずんずんと詰める。じぃ、と深い色合いをした赤を見つめていれば勝己は諦めたようにぷいと液晶へと視線を戻してしまった。

私が借りて観よう?って言ったときは「ぜってぇつまんねぇぞこんなん」とか言ってたくせに。

嫌味を込めて悪態をついたけど華麗にスルーされてしまった。あ、結構本気で見入ってるな、これ。

ノリやテンションが全くと言っていい程合わない私たちだけど、映画の趣味は不思議と合う。だから一週間に一度くらいの頻度で私たちはDVD鑑賞会を開くのだ。

お酒やお菓子をつまみ、あの演技が良かった、あの俳優が格好良かったと感想を語る私に適当に勝己が相槌を打つ。

一週間、町の平和を守った自分たちへの最高のご褒美。デートになんていけなくてもこれで十分だ。



『これ、多分深緋色だよ。赤よりも少しくすんでいて深みがあるの。はっきりしているのにものすごく上品…。』
「"こきひ"?なんだそれ。」

聞き慣れない単語に興味が湧いたのか、勝己が私の言った色名を復唱する。なんだ、と聞かれれば今言った通りの説明になっちゃうんだけど。

『落ち着いているのに、全然地味じゃないの。主役にも添えの色にもなるね。』
「ぶつぶつうっせぇな。クソナードかよ」

もう耳にタコなこのあだ名。笑顔がいつまで経っても少年のような笑顔を見せる同僚が話に登場し、ぶはっと大きく吹いてしまった。

『私出久くんみたいに可愛くないよ!』

べしべしと広い背中を叩けば盛大な舌打ちが返って来る。もう子供じゃないんだから仲良くすればいいのに。出久くんの歩み寄ろうとする精神を見習ってほしいものだ。

『あんなに良い幼馴染がいるのに勿体ない。勝己は勿体ないばっかだね』
「デクもこの目もありがてぇなんて思ったこと一度もねぇわ」

ぐびぐびとお酒の缶を勢いよく仰ぐ勝己。照れたり恥ずかしい時によくやる仕草だと分かっているから私は構わずからかい続ける。

『小さくて丸くて宝石みたい。ルビー…とはまた違うのかな。本当に素敵。』
「……好きなのは目だけかよ。」
『えっそんなこと言っちゃう?』

プツン、と音を立ててテレビ画面が真っ黒になる。急に真面目な声色で勝己がそんな可愛らしい事を言ってくるものだから、思わず半笑いで勝己の顔を覗き込んでしまった。

むすっとした顔で一向にこちらを見てくれない勝己に少し寂しさを感じて「そんなことないですよー」と胸板に頭を擦りつければ、ゆっくりと押し倒されて景色が反転した。

『私まだDVD観てなかったんだけど』
「こっちがいいってさっき言ってたの誰だよ。」

勝ち誇ったように見下ろす勝己に釈然としない。主導権を奪われてしまったような気がして不貞腐れていれば、手首を優しく纏められて自由を奪われる。

耳元、首筋、鎖骨へとゆっくり口づけが落とされて、これから起こることを嫌でも意識させられる。柔らかい感触に酔いしれて身を任せていれば首元にちくりと痛みを感じて。

『見える位置に付けないでよ。』
「一日経てばこんなん消えるわ」

ちゃんとしたのは他の所につけんだよ。

そう言って凶悪そうな顔をした勝己がつけた胸元のキスマークは、私が素敵だとうっとり見つめていた深緋色をしていた。