『しょーと!お腹減ったー!ご飯作って!』
「ン…あぁ、悪い。寝てた」
まったりとした時間が流れる日曜日。
ソファでテレビを観ていたら、いつの間にか眠りこけていたらしい。
名前の声で目が覚めた時には外は真っ暗になっていた。
霞む目をゴシゴシとかいて声のする方を見れば、腹が減ったと騒ぐ名前がいた。
『あれ食べたい!前作ってくれたホットケーキ。カリカリのベーコンのっけたヤツ』
「…パンケーキだな」
『パン…?多分それ。』
「作ってやるから待ってろ」
『はーい』
椅子にかけてあったエプロンを手に取り、気のない返事をする名前をソファへと追い出す。
クッションを抱えて「まだかな、まだかな」と楽しそうに身体を揺らす名前に思わず笑みがこぼれた。
『まだですかー?』
「もうちょっと待ってろ」
俺はこの笑顔にとことん弱い。
少なくとも、あまり得意ではなかった料理を進んでやるようになってしまったくらい。
名前はよほど腹が減ったのかとてとてとキッチンにまで戻ってきた。
「まだ5分も経ってないぞ」
「だってー…」
俺の腰にぎゅ、と巻きく名前。
ついには「お腹が減って死んじゃう…」とまで言い出した。
『助けてヒーロー…』
「そんなに腹が減ったのならアンパンマンにでも助けを求めろ。あとあんまりくっつくな、殻が入る。」
『ケチ、鉄面皮、ツンデレ。』
「ツンデレは入れるな。」
***
『はー…やっぱ焦凍の作るご飯は美味しいわー…』
「そうか。」
パンケーキを頬張って幸せそうな名前に安堵する。
ゆるゆるとした締まりのない顔。口元にバターがついてるのを指摘すれば「取って」と言われた。
「それくらいは自分でしろ」
『今私"焦凍に甘えないと死んじゃうキャンペーン"なんです!』
「そんな恐ろしいキャンペーン何処でやってるんだ。」
元々俺は料理がそこまで好きじゃない。
けれど名前の言った「焦凍のご飯の方が美味しい。」という言葉をきっかけに料理は俺の仕事になった。
最初は試行錯誤しながらの作業だったのがいつの間にか慣れてきて。
名前が俺が作った料理を食べてこんな風に笑うから、誰かの為に飯を作るというのも悪くないと思ってしまう。
これが惚れた弱みというやつなのかもしれない。
『………。』
「?何か入ってたのか」
『いや、かわいいなぁって思って。』
「なっ…!」
珍しく口数が少ない名前にどうかしたのか、と聞こうとしたら。
"かわいい"という発言がいきなり投下され思わずむせる。
えほえほと咳き込んでいれば「大丈夫?」と名前が背中を擦ってきて。
冗談でいきなりそんな爆弾を落とすのはやめてほしい。からかっているのは見え見えだし何よりも心臓に悪ぃ。
恨めしい気持ちを込めてきっ、と睨めば「やっぱりかわいい!」と満足気に微笑まれる。
常日頃思っているがお前の"かわいい"の基準て一体なんなんだ。
『ふふ、いい奥さんもらっちゃったなぁ…幸せ幸せ』
「奥さんはお前の方だろ…」
『焦凍の方が可愛いんだから奥さんは焦凍だよ。』
「…っ、」
細い腕が首に絡みついてきゅ、と抱きしめられる。
首筋に名前の息がかかって、心臓の鼓動がどくどくと早まっていくのを感じた。
こっちはそれだけでいっぱいいっぱいだというのに、名前は顔色一つ変えずに「好きだよ」だの「愛してる」だの平然と言ってくるものだから。
俺は何も言えずにただ黙って心地の良い体温に溺れることしか出来なかった。
「お前は卑怯だな…。」
『えー…人聞きが悪いなぁ。なんか焦凍はあれだね。少女漫画のヒロインみたい。すぐ顔真っ赤になっちゃう!』
「誰がヒロインだ。俺はヒーローだ。」
『じゃぁあれだ!ツンデレヒロイン!』
「なんだそれは。」
……………
『奥さん、奥さん。パンケーキおかわり!』
「そんなに食べたら太るぞ」
『幸せ太りだからいいのー。』