将来の夢


新しい学校に転入してから2週間が経った。

赤と白のツートーンカラーの少年、もとい轟焦凍くんに案内されやっとのことで辿り着いた職員室。

クラスメイトの名前も覚えて友達もできたし、新しい場所での生活にも慣れたところだった。

そんな中、放課後のホームルームで最後に先生から配られたのは1枚のプリントだった。



『…進路希望調査?』

「進路決めてないの?」


くるりと後ろを振り返って聞いてきたのは、猫島美衣子ちゃん。
前の席に座る美衣子ちゃんは転校してから、校内を案内してくれたり授業の進捗具合をを教えてくれたりする初めて出来た友人だ。
170センチほどある身長に、長く伸びた綺麗な髪の毛。中学2年生とは思えないほど大人びている。

クールだけど、面倒見もいいし優しいに美衣子ちゃんに頼ることも多く、一緒にいる機会も増えてきた。
私の身長が低いこともあり、最近では姉妹みたいと言われることもしばしば・・・。

転校してからは一緒に帰ることが定常化しているため、お互い荷物をまとめながら話題は、配られたプリントについてだ。


『ううん、決まってるんだけど…3学期から進路別だなんて早いなーって思ったの』

「一応進学校だからね。うちの中学」

『これって希望進路によっては実技とか見てくれるのかな?』

「や、基本的には座学だけのはずだったけど・・・。実技ってことは、ひかりもしかしてヒーロー志望なの?」

『うん!小さい頃からヒーロになるのが夢だったの!』

「へー、なんか意外といえば意外だけど…納得っちゃ納得だわ。ひかりがヒーローになった姿想像できる」

『うふふ、そう言ってもらえると嬉しいな〜!』


小さい頃から憧れだったヒーロー。ヒーローになりたいと強く思ったのはあの事件がきっかけだけど、具体的な夢として、導いてくれたのはお義父さんだ。
助けくれたあの人みたいに、教えてくれたあの人のような、導いてくれたお義父さんのように。私の目指すヒーローは私を助けてくれたヒーローたちそのものだ。
そんなヒーローたちや、父や母が出会った場所に入学することもまた夢だった。
もちろん入学に向けて、いろいろ習い事はしているものの、座学に関しては自力でやるしかないと思って思っていたから、学校でも対策をしてくれるのはとてもありがたいことに思えた。


美衣子ちゃんと話しているうちに帰る支度は整い、私も美衣子ちゃんも互いに席を立つ。
まだ帰宅準備をしている轟くんや、すれ違うクラスメイトたちに「また明日」と挨拶しながら、校舎を出るとクラスの元気代表の中田くんから声をかけられた。

「藤本ちゃん!歓迎会の日程調整その後どうかな??」

「なにそれ私聞いてないんだけど」

「いやいや、藤本ちゃんの予定聞いてから皆に声かけようと思ってたんだよー!!」

「怪しいなぁー、そんなこと言ってひかりの予定聞いてあわよくばとか、思ってんじゃないでしょうね。」

私が返事をする前に、美衣子ちゃんが中田くんに絡み始める。仲良しだな〜なんて笑っていれば、美衣子ちゃんに「あんたも笑ってんじゃないわよ」と優しく頭を叩かれてしまう。

中田くんから歓迎会の話を持ちかけられたのは先週のことで、ちょうど美衣子ちゃんが日直で席を外していたから、知らないのも無理はない。

新生活がまだ落ち着かず、待ってもらっていたところだった。

『待たせちゃってごめんね。再来週から習い事始まる予定だから、来週からいつでも大丈夫だよ!』

「おっけー!!そしたら俺からクラスの奴らに声かけておくから、楽しみにしてて!」

『うん!ありがとう!楽しみにしてるね!』

「おう!全力で歓迎するから楽しみにしてて!」

「あんた前回のクラス会そんなこと言っておいて、プレゼント交換用のプレゼント1人だけ忘れてたじゃん」

美衣子ちゃんのツッコミ思わず苦笑いしてしまう。

楽しいことが大好きで進んで幹事役を買って出る中田くんだけど、抜けてることも多いらしい。
なんだかんだで美衣子ちゃんも、呆れながらもお世話してて、漫才みたいで二人のやりとりが楽しかった。

校門を出て、逆方向に帰っていく中田くんを手を振って見送くれば、美衣子ちゃんがこちらをじっと見つめて何か聞きたそうな顔をしていた。


「さっき、習い事っていってたけど何か習うの?」

『うん!格闘技とか習いたいなーって思ってて・・・』

「へー、格闘技。東京でもやってたの?」

『水泳とか体操は習ってて、格闘技系は教えてくれる人が近くにいたから、たまに稽古つけてもらってたの』

「ほー、なかなかの英才教育。・・・個性だけだと受験難しそうなの?」

『ううん、そんな事ないんだけど・・・憧れてるヒーローが個性に頼らないって感じだから私もいろいろ体鍛えたらもっと幅が広がるかなーって!』


そうい話せば美衣子ちゃんは、「私も何か習おうかな」なんて言いながら、優しい顔して頭を撫で回してくれた。

私の個性はどちらかといえば、攻撃も可能な個性だ。でももし、敵との個性の相性が悪かったら?個性が使えなくなったら?そう考えると信じれるのは自分の体だけだ。
私の憧れるあの人も、格闘技に優れていた。大切な誰かを守るためには、個性に頼ってばかりではいけない。
体も、精神ももっともっと鍛えなければ勝つことも、守ることもできないから。


『美衣子ちゃんは進路きまってる??』

「うーん、まあ決まってるかな・・・」


私の話ばかりになってしまったから、美衣子ちゃんの話も聞いてみたくて話を振ってみれば、少し歯切れが悪そうに答えてくれた。
言いたそうだけど、言いにくいことがあるのかもしれない。美衣子ちゃんの言葉を待っていれば、少し顔を赤らめながら「警察官になりたい」と小さな声で教えてくれた。


『かっこいいね!美衣子ちゃんに似合ってるよ!』

「そうかな・・・」

『うん!うん!スーツびしっと着て、事件とかすごいスムーズ解決にできたりして、お偉い女警察って感じ!』

「何よそのイメージ・・・」


現場で、部下に的確に指示を出していそうなクールビューティーな大人美衣子ちゃんを想像するとぴったりだ。
将来夢が叶った時に、美衣子ちゃんと一緒に仕事することを想像すれば、頬がますます緩んでしまう。
一緒に仕事するのが楽しみだな〜なんて伝えたら、美衣子ちゃんはにっこり笑いながら「そうなったらいいね」と言ってくれた。










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美衣子ちゃんと別れて改札をくぐると、見慣れた髪型が視界に入ってきた。


『轟くん?』

「・・・藤本」

俺より先に学校でなかったか?なんて首をかしげる轟くん。
きっと中田くんや美衣子ちゃんとお話しをしているうちに、追い抜かされてしまったに違いない。
立ち止まってくれた轟くんの横に並んで歩き始める。
帰る方向を聞けば、同じ方面の電車に乗ることがわかった。
なんと轟くんは一つ先の駅が最寄りのようで、近くのスーパーや本屋さんを色々と紹介してくれた。

引っ越して間もないこともあり、いろいろと場所を教えてくれるのはとてもありがたかった。

近くのお店についての話題も、一旦区切りがついたと同時にタイムリーに電車がやってくる。
特に何も話すこともなく、電車に乗り込んで、奥の扉の前まで進む。


「・・・」

『・・・』


電車の発車ベルが鳴って、扉が閉まるまで、なんとなくお互い黙ったまま電車は出発した。
外の景色を見ていたけど、おそらく自分に向けられているであろう視線を感じて、目の前に立つ轟くんを見る。
何か窺うような目線でこちらをずっと見る轟くんは、私が目を合わせても、話を切り出すことはなさそうだ。


『えっと、なんかついてる・・・?』

「わるい、見すぎたな・・・」


尋ねてみれば気まずそうに、視線を逸らす轟くん。
ゴミがついてるとか、そういった恥ずかしい内容ではないようで安心した。

気にしてないことを伝えれば、もう一度轟くんと目線があう。
オッドアイの瞳に、電車の窓から差し込む光が出たり入ったりして、なんだか綺麗だなと思った。

普段からあまり喋らない轟くんだけど、その瞳を見てるだけで、優しさとかいろんなことが伝わってくるみたいだった。


「・・・将来、ヒーローになりたいのか?」

『うん、小さい頃からの夢だったの』


なんで突然その話題?と思ったけど、さっき猫島と話してたの聞いててという轟くんの回答に納得した。


『轟くんは?進路決まってるの?』


質問し返して見れば、きょとんとした顔こちらを見つめる轟くん。
何か変なことを聞いただろうか・・・反応を伺うように、も一度名前を呼べば。


「・・・俺もヒーローに、」

『おー!じゃあ一緒だね!』


一緒に素敵なヒーローになろうね!そう伝えてみれば轟くんの瞳は柔らかく細められて、優しい笑みを見せてくれた。

綺麗な微笑みに少しドキドキしながらも、この時は純粋に同じ夢を持っている仲間がいることが嬉しくて仕方なかった。

だから、轟くんが抱えてるものとか全然気づいてあげることもできなかった。











シャローム