家族というもの




「ひかり、おはよう。今日は私が朝ごはんを作ったぞ!!」


朝ごはんを作るのはいつも私の担当のはずなのに、リビングに顔を出せばお父さんがお盆を持って笑顔で迎えてくれた。


『え!お父さんが作ってくれたの?』

「ハハハハハ!今日の朝くらいはゆっくりしてもらいたかったからね!」

『お父さんの手料理たべるのなんだか久しぶり…』

「入試本番なんて大切なイベントなんだ。たまには父親らしいことさせてくれよな!」


そう笑顔で話すお父さんにありがとうと言って温かいお味噌汁を一口啜った。

そう、今日は雄英の入学試験の当日なのだ。
1年半前に転入した中学では在学期間が短く推薦を受けることができなかった。
代わりに、クラスメイトの轟くんが推薦で合格をもらってすでに雄英生としての切符を手に入れている。
轟くんは成績がとても優秀だから、私の在学期間が長くとも推薦の切符は轟くんに渡っていた可能性はたかいけど・・・

それでもヒーローになるという夢を叶えるためには、お父さん達が卒業した雄英になんとしてでも入学したかった。
もちろん、ヒーロー科のある士傑高校や他の高校も受けているけど、第一志望の高校受験はいつもより気合が入ってしまう。


「勉強の方はどうだい?」

『やれることは全部やったし、大丈夫!それよりも実技が心配だな〜』

「ハハハ!ひかりなら大丈夫さ!」

『え〜そうかな・・・』

「私が保証するんだ。安心して挑戦しなさい!」

『確かに・・・!No.1ヒーローからそんな風に言ってもらえるんだもんね。なんか自信でてきた!』


基本的には、習い事として武術等を学ばせてもらっていたけど、ヒーロー活動の合間を縫って、たまに手合わせをしてもらったこともあった。
正直パンチ一つで死ぬほど痛かったし、骨折したこともある。(おとうさんはお医者さんにとても怒られていた)

きっとヒーローを目指す多くの子達が今日のために努力をしてきたはずだ。
私もできる限りの努力はしてきたし、本気を出してくれることはなかったけど何度もNo.1ヒーローとも組手もしてもらっていた。
No.1ヒーローに「大丈夫」と言ってもらえるそんな贅沢な環境はここ以外にはないはずだ。

贅沢な環境といえば、今の家に引っ越してきてからのおとうさんの行動について、聞いておきたいことがあった。



『そういえば、お父さんがお目かけしてる子はどうなの?』



以前より気になっていたことを口にすれば、ギクッという言葉がぴったりなくらいこちらをみて固まっている。


「な、なんのことだい・・・?」

『え?お父さんがこっちに来てから、指導してる子いるんでしょ?』

「き、気がついてたのかい・・・?」

『気がつくも何も、一生懸命メニュー考えてたじゃない・・・』

「Shit!見られていたのか私としたことが・・・!」




リビングで一所懸命頭を捻らせたり、紙に書いたメニューをそのままに寝てしまったり・・・見てしまったというよりは見せられたと言ってもらいたい。
しどろもどろになっているお父さんを笑いながら、別に隠さなくてもいいのにと伝えるととても気まずそうな顔をされた。



「すまない・・・」


きっとその言葉にはいろんな意味が含まれているのはすぐにわかった。
私に秘密でその子とトレーニングしていたこと、おとうさんの個性のこと・・・私を後継者として選ばなかったことだ。


『私はお父さんみたいになりたいと思っても、その個性を引き継ぎたいと思ったことはないよ』

「・・・・」

『前にも言ったことあると思うけど、私以外にその個性を引き継ぐべき人がいると思ったし、お父さんがそうしたいと思える人に出会ってほしいと思ってた。だから、見つかって良かったって思ってるよ!』

「ああ、そうだね。」


ありがとう、と小さな声で呟いたお父さんに微笑んでから、もう一口お味噌汁を啜った。

お父さんの個性の話を聞いたのは一緒に住み始めて少ししたころ。

敵との戦いで大怪我をしてしまったあの時だ。
報道されることもなかったNo.1ヒーローの大怪我に、自分が思っている以上の何かが起きていることは理解していた。

そして、聞くつもりじゃなかったのに、入院していたおとうさんのお見舞いにいけばとても悲しい場面に出会ってしまった。
混乱する小学生だった私におとうさんは丁寧に説明してくれたのを今でも覚えている。



『その子は私と同い年だよね?』

「君は本当にするどいね・・・そうだよ。今日雄英高校の入試を受けるんだ」

『そうなんだ!一緒に入学できるといいな〜!・・・教え子なのに今日会わなくていいの?』

「実は・・・・」


また気まずそうな顔をするお父さんの気持ちはお見通しだった。
きっとこんな日に娘以外の人に会いに行くことをためらっているんだろう。


『早く行ってあげなよ!私もうご飯食べてゆっくり準備するだけだもん!』

「す、『謝ってばっかり!』


また謝ろうとするお父さんに、指摘すればキョトン顔をした後にHAHAHAHAと豪快に笑い出した。


『えー、なんで笑うの・・・』

「いや、君のそういうところ、本当に君のお母さんに似ていると思ってね!」

『そう、かな?』

「ああ。よく、仕事中に同じようなこと言われて怒られてたよ。」

『そっか・・・』


嬉しかった。
私は、自分の母親としての姿しか見たことがなかったから。
私の中にママや、パパの面影が残っていることを強く感じるその一言に、気持ちが一つ引きしまる。



「じゃあ、お言葉に甘えて準備してくるね」


準備を始めるお父さんを黙って見守る。
私を引き取ってくれたこと、導いてくれたこと、こうして暖かい気持ちにさせてくれること。

パパとママの想いを受け止めてくれたのがこの人で本当に良かった。
とても大好きだと思った。

コートとマフラーをつけて、玄関へ向かうその人の後ろをついて行く。
今日の試験に合格したら、この人が教える学校に入学して、学校では先生と呼ぶことになるのかな・・・
これまで以上に家族としての時間は少なくなるかもしれない。

だから今しっかりと、自分の言葉で伝えなくちゃいけない。

靴を履くために猫背になっていた背中がまっすぐになったところを見計らって、ぎゅっと背中から抱きついた。

びっくりしたようにあたふたするお父さんに、さらに腕の力を込める。



『お父さん、ありがとう。大好きだよ』

「!!!!」



感謝の言葉にあたふたとしていたお父さんの動きが止まった。



『絶対合格するから、試験見守っててね』

「ああ、ひかりならきっと大丈夫さ」


ゆっくりと体を離せば、大きな手で頭をポンポンと撫でられる。
マッスルフォームではないから、手のサイズ感も全然違うはずなのに、大きく感じたその手はとても温かかった。



私のお父さんはNo.1ヒーロー、オールマイト。







シャローム