広がる景色
え?なんで英雄が好きかって?
ばかだなーおまえ。そんなもんカッコいい意外に何があるって言うんだよ。
え?なんで英雄がかっこいいのかって?
そりゃあ、英雄はすごいからだ!
え?なんですごい?
おまえなんでばっかりだな……。
いいか?英雄は敵を恐れない!いつだって強い何かに立ち向かって何かを守ってるんだ!
そして、勝ってみせるし大切なものを守ってもみせる。
え?俺は何を守ってるって?
ば!おまえ!!そんなの聞くなよな!ってか気が付けよ!!
『・・・・』
景色が変わる。
さっきまで見ていたはずの景色とは、全く異なる景色が見える。
目線を横にずらせば、白いカーテンが風でゆらゆらと揺れているのが目に入った。
『ここ、どこ?』
久しぶりに声を出したのか、声は枯れていた。
身体も思うように動かない。
状況を確かめるために身体をゆっくり起き上がらせる。
そこで初めて点滴が刺さっていることに気がついた。
身体を起き上がらせただけなのに、平衡感覚を失ったようにフラフラするのがわかる。
外の景色が見たかった。
布団から足を出し、そのまま足をつければ床の冷たさを感じる。
力の入れ方を忘れてしまったようにうまく立つことができない。
壁に手をついてゆっくりと窓に向かって歩く。
やっとのことでたどり着いて窓から周りを見渡せば、大きくそびえ立つバベルが目に映った。
『ここが・・・オラリオ?』
「それは、オラリオにきたのが初めてということかな?」
『!!!っわ!』
突然聞こえた声に思わず振り返れば、まだ本調子ではない身体をコントロールすることができず、バランスを崩してしまう。
窓の縁をとっさに掴もうとしたが、それも間に合わずに体が地面に近づいていく。
とっさに目を瞑ってその衝撃に耐えようとしたが、その衝撃は訪れることはなく、代わりに片腕をしっかりと押さられる感覚にゆっくりと目をあけた。
「大丈夫か?」
『はい・・・ありがとうございます』
とても綺麗なエルフのお姉さんが腕を掴んで、転倒する前に支えてくれた。
ゆっくりと体制を立て直して、周りを見渡せば、小人族と思われる男性と、ヒゲを生やしたおじさんがこちらを見ていた。
「1週間眠り続けていたんだ。急に立ち上がるのは良くない。まだ寝ているといい」
『そんなにですか・・・』
「君がモンスター達と戦って気を失った時、偶然居合わせてね・・・よかったら話を聞いても?」
『・・・はい』
綺麗なエルフのお姉さんに手を引かれ、先ほどまで眠っていたベットに戻る。
エルフ・小人族・ガタイのいいおじさん。なんだか凸凹な3人組だと思ったが、嫌な感じはしなかった。
「フィン、話の前に・・・」
「ああ、そうだったね。君、食事はできそうかい?スープとパンを持ってきたんだ」
いつの間にかサイドテーブルに置かれていた、暖かそうなスープにパン。
フィンと呼ばれるその男性に、そっとスープを手渡される。
器越しに、優しい熱がじんわりと伝わってくる。
手に伝わる熱が、残酷にも幸せだった日のことを思い出させる。
もう、聞きたい声を聞くこともできないし、見たい笑顔を見ることもできない。
あの日、涙は枯れたはずなのに、気がついた時には視界は歪んでしまっていた。
一度出てしまった涙は、簡単に止めることができなかった。
話そうとしても、感情をうまく制御することができない。
何も守れなかった私がどうしてまた、誰かに助けてもらっているんだろう。
あの人たちがどうして、命を捨ててまで私を守ってくれたのか、泣いても答えが出るわけがないのに。