モッキンバード


貴方達は似た者同士ね。
それは出会った時から感じていましたよ。

その2人の侍は今もなお、師匠の教えを受け継いで、己の意思を貫いている。本当に涙がでるほど慕っていたものね。

この2人のことを、ここでは夜叉と鬼とでも呼びましょうか。こんな呼び方、2人は嫌がるでしょうか?ごめんなさいね。

まず、1人の侍。夜叉と出会ったのは、寒い寒い冬のことでしたね。
元々身体の弱い私は今日も先生の寺小屋で臥せているところ、先生は貴方を連れてきた。もちろん私はそんなこと知る由もなく、夜叉が来てから数日経って貴方のことを知ったのだけれど。
でもね、先生に聞いたのよ、貴方は名前の知らない私の事を、ここに来たばかりの貴方は心配してくれていたと。何度もこの部屋に近くまでやってきて様子を伺っていたと。それは先生にただ付いてきただけのこととわかってはいるけれど、私は嬉しかったのよ。ようやっと体調が戻り、私は貴方に貴方合うのが少し楽しみだったの。そして先生に連れられ私たちは出会いましたね。

私にはその銀色の輝く髪色も、鋭く光る朱い瞳もとても綺麗に見えました。

いつも様子を気にしてくれて「ありがとう」と呟けば知らん顔した貴方は鼻をほじりながらそっぽを向いてしまったね。
もう少し素直になればいいじゃない。


素直ではない貴方だけれど、貴方に慕う人は少なくなくて、この寺小屋の弟子1番みたいな顔をして竹刀を振って訓練していましたね。


そこに現れたのが、もう1人の侍。鬼でした。
この鬼も曲がったことが嫌いな、鋭い瞳の持ち主でした。
何度も何度も夜叉にやられては向かい、やられては向かう。私はその姿、柄にもなく涙が出るほどかっこいいと思ったのよ。言ってはあげないけれど。
貴方は最初私のことをよく思っていない様子だったけれど、私も懲りずに貴方の傷の看病をしていくうちに心開いてくれたわね。なんだか貴方とは落ち着いた話が出来て、あの縁側で喋るお話とっても好きだったのよ。

幸せな時は過ぎ、私はこの時間が永遠にあればいいのに、と願わずにいられないほどみんなが好きだったのよ。先生が好きだったのよ。

時代が変わり、戦争が起き、何が正しいのかなんてわからないまま、先生は連れていかれ、あの時を取り戻すため、私達も戦争に参加するしか道はなかった。その戦争では失うものが多く、傷だらけで帰ってくる姿に胸が痛くないました。
そして、別れの日がやってきました。
いつものように皆の無事を祈りながら、隠れ家で待っているとぞろぞろと負傷した戦士達が帰ってきました。
ほとんどの者が何も語らず、下を向くばかり、何かあったことなどすぐにわかりました。ああ負けたのだなと。負けを許すことがない、彼らは、先生はどうなったのでしょうか?いろいろな感情が積もりますがまずは、ここにいる生命を守ることを優先にしました。
夜中、処置が終わった私は、寝ずに部屋で待っていると、扉の向こうから人の影。
来ると思っていましたよ。

夜叉は私の顔も見ず「すまねえ、すまねえ」と何度も言いながら泣いたのです。

なぜでしょうね、その言葉に全てを理解したのです。先生はもういない、と。

先生だったら、こんな時なんて言葉をかけますか?夜叉が悪くないかとなんてわかります。先生と夜叉の中には私には入り込む隙もないほどの絆がありましたから。男の人の絆は時には私が嫉妬してしまうぐらいの。

「おかえりなさい。傷はありませんか?」碌に気の利いたことも言えず私はいつものように、つぶやきました。
この日からでしょうか、私が敬語を使うようになったのは。

目を見開いて、ようやく夜叉と目が合います。そして小さい声で、
「あいつの目を見てやってくれ…」
誰のことなんてすぐにわかります。
急いで鬼のもとに駆け寄ると、痛みに耐えながら小さくなっている鬼がいました。
その小さい背中を抱きしめました。
最初こそ驚いた顔の鬼ですが、抵抗もせず私のされるがままとなりましたね。

そして、戦に負けた私たちは、だんだんとこの場から姿を消していった。ひとり、またひとり、と。
意外にも早く旅立ったのは夜叉貴方でしたね。何年も一緒にいたのに、私に一言も言わず、何か一言も言ってくれてもいいのに。まああの日以来、貴方が私を避けていたのは知っていましたから。
そして1番最後まで残ったのは鬼、貴方でしたね。正直な話、貴方が1番に出ていくような気がしていました。
あの日以来、貴方は私の側を離れず近くにいてくれたからしっています。何かを決心していたことを。それでも最後まで残ったのは私のことを心配してくれたのでしょうか。



「知ってるか?あいつ、今江戸で餓鬼どもと暮らしてるみてえだぞ。」

三味線を弾きながら貴方は言いました。

私はあの後、鬼についていき、もう何年の時を過ごしました。

「そうなの。」

それだけ呟いた私をみて、鬼は何を思ったでしょうね。

夜叉はまた守る者ができて、守り守られながら過ごしている日々が想像できて、涙が出そうになったのは私だけの秘密にしましょう。

背を向いて歩き出した彼ら。
互いに傷つけいるけれど、私はよく知っています。
2人は不器用だから、自分なりに先生の教えを守り生きていると。

鬼に出来ないことを夜叉が。
夜叉が出来ないことを鬼が。

まるで鏡のよう。

そうやって、もう1人の自分を作り出しては支え合っていくのね。

三味線を弾くことをやめた彼は、船から真っ黒な外を眺めている。
その姿をみて私は、
そっと背中に手を添わせ、優しく優しく抱きしめるの。

もう1人の彼の姿と重ね合わせ。

近々、彼にも会いに行って、思い切り抱きしめようと思った。

先生にはもう出来ないことを私が行っていかないと。

そう、これは私なりの誓い。


先生。ねえ、先生。早く私を抱きしめて。


29.07.23