少女のためのやさしいお芝居

 ご飯を食べた後、また車に揺られて到着したのはボーダー本部。その渡り廊下を何度も曲がったり階段を上ったりして着いたのは、広い会議室だった。奥には小難しそうな人が口元に手を組んで座っている。見たところ、この人がこのボーダーという場所の長らしい。りんどうさんはその部下というわけか。私がいろいろと情報を整理していると、ボーダーの長から見て右側の狸みたいな人が、私に話しかけた。

「久しぶりだね、みょうじくん」
「お久しぶりです——キヌタさん」

 私は張り付けたような笑顔でキヌタさんに返事をした。それに気づかないキヌタさんは、とても満足そうな顔をして視線を長の人の方へと向けた。私はほっと胸をなでおろした。

「あんまり気負わなくていいよ。大丈夫だから」
「……うん」

 じんゆういちは私に、近くにある椅子に座るように言った。

♢♢♢


 小難しい顔をしている人だと思った。常に眉を顰めていて、言葉の温度が1℃にすらないような、そんな難しい人。でも彼は、昔は大きな口を開けて笑う人だと私は知ったから、彼には彼なりの理由があるのだと思い、そこで私は過去をみるのをやめた。

「覚えていないとは、どういうことだね」

 キヌタさんが怒ったような口調で私に言葉で詰め寄る。私はぐっと眉に力を込めると、横からリンドウさんが援護してくれた。

「向こうにいた頃のことは話せるけど、どうして自分が『あの行動』をとったのかは説明できないってことでいいんだよな?」
「はい。そうです」

 私の記憶がなくなった時と、私が向こうでの生活を始めた時は一致しているのだと思う。そのことに関してはミラたちの過去をみて知っている。それに、私がどんな行動をとって「向こうの世界」に残ることになったのかも、彼らの過去をみて分かっていた。そのことは私の正面に立っているキドさんが一番良く知っているはずだ。

「でも、お前には副作用があるだろう。それを使えばいいのではないか?」
「キドさん。この話は前にも言ったみたいだけど、この能力は他人の過去はみえても、その行動をするに至った理由まではわからないんです。だから私は、過去の私がどんな行動をしたのか知っていても、明確な理由が明らかにならない限り、話すつもりはありません」
「やれやれ、とんだ頑固者だ」

 ネツキさんがお手上げだと白旗を振る。カラサワさんは元からこの話に加わるつもりはないようで、私たちの会話を聞きながら様子を伺っていた。まるで獲物を狩る前の猫みたいだ。

「では、話せる範囲でいい。 近界むこうにいた時の話をしてくれないか」
「はい」

 忍田本部長が私の意図を汲み取って、報告するように促した。会議室にいる全員の視線が私に集まる。私はこの自分から何かを話すという行為がとても苦手だ。息が詰まりそうになる。私はいつもより気持ち多めに息を吸って、ふうっと吐いた。
 そうして私は、向こうにいた頃の話を始めた。