朝、目が覚めた私はクローゼットに進んで扉を開いた。するとそこには真新しい服たちが仕舞われていて、私は思わず昨日の出来事を思い出した。ふたりの思うがまま、いたるところに連れていかれた。最初は気が進まなかった私も、ふたりの楽しそうな顔を見ていたら自然とそんな気持ちはどこかに飛んで行ってしまっていて、顔がほころんでいた。昨日は、とてもいい日だった。
一階へと降りると、朝餉の香りが鼻腔をくすぐる。なんていい匂いなんだろう。ここに来てからというもの、毎日豪華な食事ばかり提供されるので、ずっとパーティをしている気分になる。でも実際はそんなことはなく、ここの食事はいつもこんな感じなのだと後々知った。そして本当はもう少し人数が多いことも。
「起きたか。パンでいいか?」
「うん。ありがとうございます、れいじさん」
ここに来てから最初にみんなに言われたのは、「敬語は外してほしい」ということだった。ここにいた頃の私は、玉狛支部の人たちと分け隔てなく接していて、敬語もあまり使っていなかったらしい。勿論、りんどうさんや年上の人には使っていたようだが、れいじさんには敬語とそうじゃない口調の両方が混じった話し方をしていたと本人から聞いた。でも流石に最初からそれをするのはハードルが高いので、敬語から始めている。呼び方も、昔に私が呼んでいたものを教えてもらって、支部のみんなにはそう呼ぶように努めている。しかし、じんゆういちだけは呼称に二パターンあって、その中から気に入った方を使っている。
「あれ?じんゆういちは?」
「暗躍だな」
「うむ」
「ほう、あんやく」
その言葉を聞いた私がぽかんとしていると、れいじさんが「裏で色々と動き回っていることだ。あいつの趣味だな」と言った。私はその意味を聞いてもいまいちピンと来なくて「ふうん」と気の抜けた返事をした。れいじさんがそれ以上このことについて触れようとしてこなかったことから察するに、彼以外の人間は彼——すなわちじんゆういち——が暗躍でなにをしているかなんて知らないし、あるいはわざと知ろうとはしていない、もしくは知りたくても彼自身が教えてくれないのだろう。私はこのことに首を突っ込むのは野暮だと考え、口を噤むことにした。