どうしたって居心地の良いとなり

 きりえとようたろうがなにやらテレビの前でギャーギャーと騒いでいる。私はれいじさんに頼まれた洗濯物を室内に取り込みながらその様子を横目でちらりと見ると、どうやら玉狛支部の新人、みくもおさむが記者会見に出ているようだった。私はまだ彼と直接会っていないけれど、彼のチームメイト——ゆうまとちかちゃん——とはここに来て少し経ったときに会った。ゆうまと一目会った時に、彼は近界民だと私のサイドエフェクトがそう告げた。本人にも確認したところ、それは事実だった。まあ、今までも近界民なんていくらでも見てきているので、さほど驚くことでもなかったのが本音ではあるが、まさかあのきどさんが近界民をボーダーという組織に入れることを許可したことが一番意外だった。あの人の過去を視たけれど、じんゆういちとドンパチやっていたし、過去に色々あったみたいだし。それに近界民のこと、嫌いそうだったし。一方もうひとりのチームメイト、ちかちゃんはゆうまと同じくとてもいい子だ。ここのリビングでお菓子を頬張っている姿に、私は何度癒されたことか。でも、トリオンの大きさ故にハイレインたちに狙われたことは、本当に申し訳ないと思う。

「なぜおさむがここにおる?!?!」
「根付さんのやり方許せないんだけど!なにあれ!!」

 かき集めた洗濯物をどさりと置いて、れいじさんに習ったやり方で畳んでいると、じんゆういちが私の真正面に座って作業を手伝ってくれた。私はTシャツなどを畳み、じんゆういちはズボンなどを畳んでいた。

「小南たち、なんで騒いでんの?」
「大人がおさむくんにわざと矛先を向けるようなことをしているから、かな」
「なるほどな、そりゃ小南たちが怒るわけだ」

 じんゆういちは騒がしい方に目線を向けたまま、手元だけは手順通りに動かして綺麗に服を畳んでゆく。私の方が早く作業を始めたはずなのに、彼の方が畳み終わった服の数が多くて、なんだかむっとした。

「悔しい?」
「…くやしい?」
「うん。悔しいのかと思って」

 そのまま続けて「どう?」と言ったじんゆういちに、私はぽかんとしたまま何も返せなかった。悔しいとか、悲しいとか、辛いとか、苦しいとか。そんな言葉は知っていたけれど、口にしてはいけないと思っていたから。それらの反対の意味を持つ言葉も、この世界に来るまで私はできる限り見せないようにして過ごしてきたから。だから私はずっと、この世界に住む人たちが羨ましいと思っていた。それは楽しそうに生きているからだとか、強制的に仕事をさせられていないからだとか、そういうところだけじゃなくて、もっと別のところに魅力を感じていたからなのだ。感情を素直に出せる。そういう面において、私はとても彼らのことが羨ましいのだと。

「…そうだね、くやしいのかもね」
「すなおだな」
「ふふん、きみのめはふしあなだね」
「…ねえ、また陽太郎に変な言葉教えられてない?」
「またとはなんだじん!なまえちゃんにへんなことはおしえてないぞ!」
「あーわかった、わかったから」

 変なことと言えば、じんゆういちの目元にあったくまさんがなくなっている。そういえば、最近暗躍しているところは見ていないしみえないので、ここのところはしていないのだろうと思う。しおりも私ときりえと買い物に行った後からずっと部屋に籠って出てこなかったし、ここの人間は過労が過ぎる。もう少し自分の身体を労わってあげてほしいものだ。

「最近は暗躍してないんだね」
「その話、誰から聞いたの?おれ、なまえに言ったっけ?」
「れいじさんが教えてくれた」

 じんゆういちは私の返答を聞くなり、納得した表情を浮かべた。その表情を見ながら私は、もしかするとその未来は視えていなかったのかもしれないと思った。なぜなら、じんゆういち自身がそう言っていたからだ。自分のサイドエフェクトは万全ではないのだと。時々読み逃してしまうことがあるから、なにか不安なことがあったら言ってほしいと、退院した日の車の中で言われたことを思い出した。正直、こんな言葉を人には告げるくせに、当の本人はなんにも頼ってくれないし話してくれないけどね。

「きみは抱えすぎだと思う。いろいろとね」
「ん?」
「まあとりあえず。そんなに落ち込まなくてもいいと思うよ。この間の侵攻の結果が君のみえていた未来の中で限りなく最善に近いものだったのなら尚更ね」
「……うん」
「きみはよくやってる。えらいよ」

 珈琲をすする。コップに入っているこの液体がなくなる頃には、記者会見も終わって、洗濯物の片付けも始めている頃だろうなと思いながら。