ぐずぐずの内傷が叫んでいる
「れいじさん、私を本部に連れて行ってほしいの」
「何か用事でもあるのか?」
「うん。らいぞーに呼ばれたんです。あときぬたさんにも」
「わかった。待っててくれ、エンジンをかけてくる」
♢♢♢
開発室のドアを開けると、そこにはカップラーメンをすする寺島雷蔵がいた。彼は昨日も今日も本部に泊まり込みで、ろくな食事をしていないんだろうなあと思いながら、みょうじは彼のもとに駆け寄った。
「来たか」
「はい。エネドラ様はどこにいらっしゃいますか?」
椅子に腰かけ直し、パソコンのような機械をカタカタと鳴らしてラッドにトリオンを注入する様をみょうじはぼうっと眺める。するとにょきにょきとラッドから角が生え始め、大きな瞳がぎろりと彼女の方を向いた。
「遅せえんだよ、どれだけ待たせんだ」
「本当にしゃべった……」
口を大きく開けたまま突っ立っていると、エネドラが私の方を見て嘲笑した。
「なんでお前がここにいる。あいつらと帰ったんだと思ってたぜ」
「どうやら、ここが私の出身地らしいのです。ですので、乱戦中にここの隊員に引き留められました」
まるで黙々と雑務をこなすようにみょうじはエネドラに応答する。確か加古の話では、彼らの長であるハイレインにはかなり砕けた話し方をしていたらしいが、これは真逆だ。エネドラの機嫌を損ねないように対話方法を変えているとしか思えない。
「ほおん。で?なんでここにいんだよ」
「私にも理解不能です。ですが、私の記憶の想起を目的としているようです」
「さっきから、らしいだのようだの、なにもはっきりとしねえな?」
「申し訳ありません」
ラッドに頭を下げて謝るみょうじの姿を、寺島はまるで珍しいものを見るかのように見ていた。しかし、彼女の方は至極本気である。彼に本当に悪いと思って謝罪の言葉と共に腰を何十度にもまげて陳謝しているのだ。寺島は、こんな奴に礼儀正しく接するなんて、彼女は相当肝が据わった人だと思った。そしてそれと同時に、向こうの国で過ごした二年もの間、彼女の身に一体なにがあったのだろうと案じた。エネドラは言動がかなり乱暴だ。それがリーダーに対する敬意の表れなのだとしても、目に余るものがあった。そのことはきっと彼女も知っているはずだ。他のメンバーよりも彼と一緒にいる期間は短かっただろうが、それでも彼の性格はある程度把握していると考えられるし、知れる時間はいくらでもあったと思う。しかし、彼にここまでの言動をするということは、彼を尊敬しているのか、それとも他の理由からなのだろうか。寺島は考えあぐねた。
「本国のことはしゃべったのか?」
「はい。ですが、他の人の話とすり合わせなければ事実とは言えないため、他の方の事情聴取も随時行われると思います」
一見、彼女は整然と結果のみを淡々と話しているように見えるが、時折エネドラが話したい事柄を予測して提示するように話していることに気付き、寺島は唖然とした。だが、本国のことを話したかという質問に肯定の意を表した彼女に、エネドラは深く激怒した。
「裏切りだな」
「ハイレイン様に見捨てられた人に何を言われようが私は傷つきませんので、どうぞご自由に罵詈雑言を浴びせてください」
「なんだと?」
エネドラの眉が先程よりも益々と吊り上がる。彼女の言葉がよほどお気に召さなかったらしい。だが、そこに畳みかけるように彼女がエネドラに話しかける。
「ですがエネドラ様も、本国のことをここの職員にお話されたのではありませんか?」
「誰に聞いた、そんなこと」
「お教えできません」
「オレァいいんだよ、もうハイレインのクソ野郎に殺されてっからな?だがおめぇは違うだろ。大事な情報源で捕虜、それに戦闘員なんだからな」
試すような、そして脅すようなその口調に、尻込みしてしまいそうになる。もしくは圧死。それでも彼女は、真っ直ぐとエネドラの方を見据えて話すのだから、見ていない間にかなり肝が据わったのだなと雷蔵は感じた。もともと思ったことははっきりというタイプだったから然程驚きはしないが、しかし少し思うところもあった。ああ、彼女はまだ齢19だというのに自分よりも大人になってしまったのだと。
「それはエネドラ様も同じです。エネドラ様は今、ボーダーの大切な情報源です。捕虜でも戦闘員でもありませんが、そこは私と大して変わりません」
「お前、見ていない間に随分と生意気になったじゃねえか。国にいた頃は従順だったのによ」
「従来のわたしはこういった性格だったようです。当時の私と親しかった方々から伺いました。それを真似ているに他ありません」
「もういい。おい、映画を観せろ」
それまでみょうじの方を向いていたエネドラだったが、雷蔵にそう言った後、後ろを向いてこれ以上の会話をするのを拒否した。雷蔵が映画を再生しに行く。
エネドラが映画を観始めてから数分経った頃、鬼怒田がやってきて、どういうことだとみょうじに詰め寄った。彼女は雷蔵の後ろに隠れて、雷蔵の言うことにうんうんと頷いて意思表示をした。事の全容を聞いた鬼怒田は深くため息をつき、今日のところは彼女を玉狛に帰すように言いつけて開発室を去った。