きらきらと瞬く星は、まるで不純なものを一切知らないようで少し腹が立つ。夜にしか現れないそれに立腹しても意味がないことくらい分かってはいるけれど、私は子どもだから怒りの矛先を感情のないものに向けることしかできないのだ。
「いた」
扉が開く音が聞こえたあとに、優しい音色が鼓膜を揺らした。振り向くと、湯気を立てたマグカップを片手に、空いているもう片方の手をこちらに向かって挙げるじんゆういちの姿があった。匂いからしてコップに注いだのは珈琲だろう。深みのある苦い香りが鼻腔をくすぐる。
「風邪ひくよ」
マグカップを持つ腕にかけていたブランケットを私の肩にかけた彼は、心配しているような口ぶりでそう言った。風が右側から吹いて、珈琲の香りがより強く鼻に届く。
「何かあった?」
「どうして?」
「なまえがここにいるときは大抵、何か考え事をしているときだから」
目線は街の方を向いたままそう言って珈琲をすする。その様子がとても様になるのだから彼はすこしずるいと思う。そして触れたらすぐに消えてしまいそうだとも。
ここで泣きそうになっている「私」の姿がみえた。眉をへの字に曲げて、今私の隣にいる人の言葉に肯定していた。じんゆういちは、戸惑った表情をして何か言葉を口にしようとしていたけれど、「私」はそれを発させなかった。その人が去った後「私」は蹲って、両脚を抱えて泣いていた。そういえば随分と前にそんな夢をみた気がすると気付いたのはここ最近のことだ。運命がようやく正しい方向に向かっているような、そんな予感めいたものを感じた。
「ねえ」
「ん?」
「きみのよく知る『私』は正しい選択をしたの?」
わたしは彼の横顔を注視しながらそう訊いた。別にあとから過去をみれば今彼がどんな表情をしていたかなんてわかってしまうけれど、これだけは自分の目に焼き付けたいと思った。
「城戸さんたちには、もっと別の方法があったんじゃないかってたくさん言われたよ。でもあの時のおまえもおれも、まちがってなかったと思う」
本当はたくさん泣いたのに。私が覚悟を決めて、そしていなくなってからもずっと泣いていたのに。自分のことを責めて、上役に怒られて、他にもっといい方法はなかったのかと自分に問い、他の人に問われ続ける日々が辛くないはずがない。私は過去の自分が行った決断を支持できなかった。
「綺麗な思い出にしたいの?」
「全く」
「きみは私がいなくなってからあんなに自分を責めて泣いたのに?」
表情は変わらない。私がこう言うと分かった上で先程ああいうふうに答えたのだということに今更気付いて、彼の方が何枚も上手だということを改めて感じる。昔も今もそれだけは変わっていないらしい。そうじゃないよというその声がひどく優しくて、どうして彼はこんなにも底抜けに優しいのだろうと思った。内側に秘めた彼の不安定な優しさに触れた気がした。
「質問を変えるね」
どうせ今から私が発する言葉も彼にはお見通しなんだろうなと思いながら私は言った。
「じゃあどうしてここに来たの?」
「うーん……なんていうか」
目尻の皺が濃くなるくらい目を瞑って、それから開けた瞳で彼はどこか悲しそうに、しかし安堵したように、慈しみをもって私の方を見るのだから、私は胸の奥が熱くなるのを感じた。まるで私じゃないみたいに身体が反応する。私は、その瞳を知っている。
「またひとりで泣いていたらどうしようと思ったから」