運命に見初められた子どもたち

 腹を立てて泣いたあの日は、絶対に戻ってこないことを知っている。あの憎悪を、グラスから零れ落ちそうになっていた——いや、零れ落ちたのを掬ってもらったのかもしれない——怨念を、制御できるほどにはわたしも「大人」になったつもりだ。周囲の人間はわたしのことをまだまだ子ども扱いするけれど、血のつながったひとが誰ひとりとして存命していないわたしにとっては、あの日に無理やり「大人」になったも同然なのである。
 だから初めて彼を見たとき、少しだけわたしに似ていると思った。本当は泣きたいのに、その面をうまく隠してにこにこと飄々としている偽りの仮面をかぶっている彼に、興味を持たずにはいられなかった。

「あれ?きみ、未来がみえるんだ?」

 ぱちぱちと目を瞬かせる彼を見て、このルートは余程起こる確率の低い未来だったのかもしれないと悟る。いや、能力でみていた印象とは違ったのかもしれない。彼の過去はわかっても、彼が抱いた印象まではわからないのだ。とりあえず、まずは自己紹介から始めよう。

「じんゆういち、だね。はじめまして。わたしは——」
「みょうじなまえ」
「正解。やっぱりみえるんだ〜」

 未来がみえるという人間とはそうそうお目にかかることはできないので、わたしの興味津々な部分が顔を出し始める。わたしは過去がみえる。自分の分はみえないけれど、その分他の人のそれが否応にでも頭の中に流れてきて、止めようと思っても止まらなないのだと言うと、彼は少し驚いたような顔をしてわたしのことを見つめた。わたし、なにか変なことを言ったかなと思ったけれど、感触的には悪くない反応だった。多分、彼の言いたいことはこんなにも重い副作用を持っているのに、どうしてそんなにも明るくいられるのだろうかといったところだろう。彼の過去にはいろいろとありすぎる。昔、察しが良すぎるのも玉に瑕だなと言われたのを思い出す。

「きみは、なにも悪くないよ」

 そう言って彼の手を握ると、ぱっとわたしの方を向いた彼の瞳に薄い膜が張っていることに気が付いた。自分たちがしてきたこと、あるいは今からするであろうことはきっと間違えではないんだ。そう祈ることでしか運命さだめに抗えないのだということを、わたしも彼も知っている。でも優しい彼だから、きっとこれからも自分を犠牲にし続けるのだろうと思う。
 手をぎゅっと握り返され、そちらに意識をとられていると、わたしの腕に雫がひとつ、またひとつと落ちてきた。慌てて彼の顔を見ると、困惑した表情をしていて、思わず笑ってしまった。読み逃したとでも言いたげなその顔を見て、このことは誰にも口外しないことを誓った。

「ほんとうに、困った人だね。きみは」