憂いの紺碧色

 あれは下校の最中だった。いつものようにふたりで玉狛に帰っているときに未来が突然分岐した。つい一秒前は一緒にいる光景がみえていたのに、今はそれが起こる確率が低くなっていた。代わりに耐え難い未来が高確率で起こることが分かった。
 思わず足を止めてしまったおれに気付いたなまえが、心配そうに振り返った。これから言う言葉はこうだ。

「大丈夫?また変な未来でもみたの?」

 当たり。彼女は異常なほどに察しがいいから、今のおれの状態を総合してそう言ったんだろうけど、残念なことにそれは当たってしまっていた。

「あたりって顔してる」
「はやく帰ろう」
「ねえねえ知ってる?今日はレイジさんがハンバーグ作ってくれるんだよ」

 表情が明るくならないおれを見て、彼女は無理やり話題を転換する。彼女はハンバーグが好きだった。その理由を聞くと、言いにくそうにそれは彼女の母親の得意料理だったのだと教えてくれた。料理が得意ではなかった母親のために前回ハンバーグを作ったときから然程日が経っていないのにハンバーグをねだっていたのだという。「ごめんね、こんな話しちゃって。面白くないよね」と言った彼女の顔が今でも忘れられない。
 大して表情の変わらないおれを見てか、珍しく彼女がおれの手を握った。恋人同士だというのに、周囲の目が気になるから嫌だと手をつなぐことすら阻んできた彼女が急にだ。おれは思わず隣に視線を移すと、そこにはいたずらっ子のような顔をした彼女がいた。

「びっくりしたって顔してる」
「いやあ、おまえから手を握ってくれるとはね」

 そうは言いながらも、今のおれ、どんな顔してる?にやけてるのばれてないかな、大丈夫かなと柄にもなく心配する自分がいた。でも当の本人はおれが驚いていることに気を良くして鼻歌を歌っている。このまま支部に着けばいいんだけどなあと思っていると、彼女がふとこちらを向いてむうっと頬を膨らませた。あ、ばれた。

「けしからん…にやけてる……」

 繋いでいない方の手をぐーにして、ぽこぽことおれの肩を叩く彼女の姿がとてもかわいかった。戯れながら、こんな時間がずっと続いたらいいのにとそう思った。