しらないところ
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ふわふわの髪の毛に無垢な垂れ目がちの瞳、こんな如何にも温室育ちというふうな女と、俺は付き合っている。
「茨くん、じゃあ今日、いつものところで待ってるね」
「えぇ、少し待たせてしまうと思いますが、お願いします」
おっとりした声が電話越しに優しく響く。自分の根回しや警戒のお陰か、俺と彼女に接点があることはほとんど誰にも知られていない。
Edenの面々にも。弱味になるようなことはおおっぴらにしたくないし、一応、アイドルとして働く彼女にも影響があると困る。お互いこれからまだまだ金を稼げる歳なのだから、スキャンダルなんかは御免だ。
「……茨、この後なまえちゃんと会うの?」
「閣下!!」
「あぁ、ごめん……話しちゃダメだったね。気を付けるよ」
どこか彼女と似た穏やかさを持つ、俺の最終兵器。閣下にだけは、秘密の共有というのも必要だろうということで話しておいた。だが、やはり、話さない方が良かったかもしれない。こうして「ついうっかり」口にしてしまうことが稀にあるのだ。
「早く終わらせられるよう、頑張ろうね」
「……えぇ、そのつもりです……」
気苦労が増えるばかりだな、と思いつつ、携帯の電源を切り仕事に向かう。その日の仕事は予定通り、いや予定よりずっと早く、順調に終わった。
事務所を出て彼女にメッセージを送るが、反応がない。「着いたよ」とメッセージが来ていたから、待ち合わせ場所に行けばいるにはいるんだろう。しかし何か万一のことがあったら、と思い、小走りで待ち合わせ場所へ向かった。
「さっきからずっとそこいるじゃん、彼氏来るまででいいからちょっとご飯行こうよ」
待ち合わせ場所に着けば、妙な男が彼女に絡んでいる。どうもナンパらしい、幸い彼女がアイドルであることには気付いてないようだった。
「行きません」
ぴしゃりと、今まで聞いたことのないような冷たい声で、彼女は男を睨みつけた。その冷たさに、思わず駆けつけようとした脚が止まる。
「貴方と行っても何のメリットもないので」
お前そんなことも言えたのか、と思わず笑いそうになる。男がしつこくナンパを続けようとしたところで、間に割って入った。
「失敬!どうも、俺の彼女に何か?」
「……や、なんでもねーっス……」
ぎろりと睨みつけてやれば、男はさっさと逃げて行った。ニッコリ笑って彼女を見ると、彼女は顔を真っ赤にして視線を外す。
「どうもすみませんね、待たせてしまって。……何故顔を背けるんです?」
「だ、だって……き、聞こえてたでしょ……?茨くんには、可愛いところだけ見てほしかったのに……あんな……」
「あっはっは!さっきの貴女も可愛かったですよ。……ちゃんと全部見せてください。自分は、ああいうクソ生意気なほうが、征服のしがいがあって好ましいですね。犯したくなったのでホテル行きましょう」
ぽんぽんと頭を撫でると、彼女は照れ隠しに顔を顰めてみせる。が、やはり嬉しかったのか、隠しきれずにふにゃりと笑った。
「茨くん、すき」
「俺にも生意気なこと言ってくれていいんですよ」
「えぇ……Mなの?めんどくさい……」
「あっはっは!ムカつきますねぇ!」
なんだかんだ言って、まだお互いのことはよく知らない。知らない部分を知るたびにくすぐられる心があるのだから、早くその身の全てを開示してしまってほしい。
そうすればきっと、露わになった心を隅まで喰らい尽くして愛してやれるだろうし。
「でも、茨くんのこともちゃんと教えてね」
「……えぇ、勿論」
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