舞台を下りる
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彼女が、私の手をすり抜けて、逃げていく。捕まえようと手を伸ばすことすら出来ず、ただ遠のいていく彼女の影を見つめて、目を細めた。
「台詞を、間違えてしまいましたね」
足もとを見て、自嘲気味に独りで笑みをつくる。手に持った一本の薔薇を廊下の窓から外へ放り投げて、その場に立ち尽くした。嫌になるほど清々しい初夏の青空が目を突き刺す。
「好きです、お付き合いしていただけませんか」
と、そう口にしてしまった。きっと笑ってくれると思った彼女の顔は、戸惑いに満ちて、固まってしまっていた。
すぐに、冗談だと言えば良かった。いつも通り演技の練習だとでも言ってしまえば。……あぁ、何もかも間違えてしまった。
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