夏油傑の帰還とすみれのチカラ

泊まりがけの任務を終えて報告をタブレットに打ち込みながら私は高専の応接室のドアを開けた

…文明の利器って凄いね。高専時代なんて報告書は紙だったよ。まぁ悟が片っ端から全部吹き飛ばすから報告なんてものは殆どなかったけどね

応接室そこには高専時代の同級生である五条悟と家入硝子の二人がそれぞれソファに座って私を出迎えてくれた

「お、傑ぅ〜お疲れサマンサ〜」

「お疲れ」

「ただいま、悟。硝子」

私は二人からの労いの言葉を受けて悟の隣、硝子の正面に腰を下ろす

「で?悟、私をわざわざ応接室ここに呼び出した理由はなんだい?」

「え〜。理由ないと傑のこと呼びつけちゃいけないのかよ〜」

ぶーぶーと唇を尖らせて不満ですという態度を取る悟に私は高専時代に3人しか居ない同級生でよく駄弁っていたことを思い出す

呪術界の御三家と呼ばれる五条家の生まれの悟は一般の家庭育ちの私からしてみればそれはそれはものすごいお坊ちゃまだったことに驚いた

…カップラーメン食べたことないって聞いた時は本当にビックリしたよ

クスっと思わず笑いがこぼれてしまった時だった。急に現れた悟と硝子以外の気配に咄嗟に振り向こうとする私よりも先にその気配の持ち主は私の目を後ろから覆ったのだった

…はやいな

「傑、そんなに殺気立つなよ」

「そーだ、そーだ」

「「すみれが泣いちゃうぞ」」

悟と硝子が声を揃えて言った

「…え?」

私の目を抑えていた小さな手をゆっくりと外しながらその手の持ち主を視界に入れる

悟に似た上から下まで真っ白な女の子。悟との違いはその瞳の色だ。悟の瞳は澄んだ青。対して彼女は透き通った赤だった

「…すみれなのかい?」

「…すぐる」

私は目の前にいる少女の存在が俄に信じ難かった。しかし悟と硝子が共に頷いている。それだけがすみれが私たちの元に帰ってきてくれたという事実を私に教えてくれていた

「すぐる、すぐるっ!よかった!生きてる」

「はは、私はそんなに簡単に死なないよ」

私の正面に回ってきたすみれは私のことをこれでもかという力でぎゅうっと抱きしめてきた。そして私の耳元でポソっと呟いた言葉に私は彼女がどれだけその事実に一人哀しんでいたのかを知ってしまった

「違うの、すぐる。すぐるはさとるとしょーことバイバイしちゃったの。それでね、赤がいっぱいだったの。すみれそんなのヤダって思った。そしたら此処に帰ってこれた」

「そうか、それは心配をかけてしまったね。ほらすみれ、よく見て。私はちゃんと此処にいるだろう?」

ボロボロと赤い瞳から流れる涙がすみれの頬を流れきると結晶化しながら私の座るソファに落ち、弾みでいくつかがコロコロと転がる

その1つを手に取ってああ、結晶これは間違いなくすみれの力だなと思い結晶をパクリと食べる。この結晶は普通の人が食べてもなんの味もしないただの固形物。そう普通の人が食べても…だ

私の術式である呪霊操術は呪霊を取り込むことで呪霊を使役することができる。ただ、呪霊はとにかく不味い。どんな風にって聞かれたら簡単に言えば吐瀉物さ…そんなものをいくら自分の術式とはいえ何度も何度も繰り返していれば嫌気がさす

そんな時だった

ある日突然やってきた私たちの日常に紛れ込んだ異物すみれ

悟曰く電波少女

校舎の隅っこで蹲ってる小さな真っ白い塊。具合でも悪くなってしまったのかと思い近づいてみるとすみれはその小さな手に一匹の蠅頭を持っていた

すみれも随分と小さい方だが彼女と比べてもあまりに小さなその体躯の蠅頭は本当に産まれたばかりのなんの脅威にもならない類のものなのだろう

それでも余計な芽は摘み取らなければならない

祓ってしまおうとした時だった

すみれがなんの躊躇いもなくその蠅頭を齧ったのは

「?!!すみれ!」

私が彼女の名前を呼ぶとすみれはこちらを振り向いた。口に蠅頭の腕が入ってる状態で

「すみれ、何を食べているんだ!蠅頭そんなものなんて食べてはダメだろう!ペッてしなさい!ペッて!」

「んべぇー」

口を開けたすみれの口から蠅頭を出してそのまま握り潰した。塵となり雲散した蠅頭を後目に私はすみれの肩を掴んでいた

「ダメだろう、すみれ。蠅頭は食べ物じゃないんだ、わかるかい?」

「でも、すぐるもたべてた」

小さな白い指が私を指している

「私が呪霊を取り込むのはそういう術式だからだよ。すみれ、キミは違うだろう?」

「むー。すみれも食べるー」

「美味しくないんだから食べてはダメだよ」

「すぐるは美味しくないのに食べるの?」

「そうだね」

…食べなくて済むならこんな呪霊もの食べたくもない。けれど食べないわけにはいかないんだよ。なんてすみれに説明したところで伝わるはずもない

「すぐるっ」

すみれに名前を呼ばれて顔を上げるとすみれはその小さな手に何処から取り出したのか金平糖のような透明の固形物乗せていた

「これは?」

「すみれのアメ。美味しくないもの食べたとき食べるといいよ。すぐるにあげる!さとるには内緒だよ」

そういうとすみれは私から逃げるようにタッタッタッと高専の方へと駆けていってしまった

このすみれが私にくれたアメのようなものが私だけに効果があると気付いたのはすぐあとのことだった

その日も悟と二人での任務だった。悟が赫で全てを吹き飛ばす前に使役したい呪霊を飲み込んだ。呪霊は人間が食べるものではない。吐き出せるものなら今すぐにでも吐き出してしまいたい

そんな吐き気と戦いながら制服のポケットを弄るとすみれから貰った透明のアメのようなものがあった。私はすみれが言っていた美味しくないものが呪霊のことではないかと直感的に思いアメを口に含んだ

「…?!」

呪霊を飲み込んだあとの不快感が一気に消える

「…なんだ、これ」

驚きのあまり固まっていると、目敏く悟が見つけて声をあげる

「あー!傑!一人で何食べてんだよ!俺にも頂戴!」

「悟が食べても美味しくないと思うけど?」

「それは傑じゃなくて俺が決めること!ちょーだい!」

「まったく…」

聞く耳を持たない悟に仕方なくすみれがくれたアメを1つ悟に手渡した

「何味?」

「なんだろう…よくわからないな」

「ふーん」

興味がないのか悟はすぐにアメを口に含みコロコロと口の中で遊んだあと口から出した

「んべぇ…」

「汚いな」

「なんだよ、これ。ちっとも味なんてしないじゃん。こんなの食って何がいいの?」

「だから言ったじゃないか。悟には美味しくないよって」

「それにコレなんか変な感じがする」

口から出したアメを摘み、悟はその真っ黒なサングラスの下にある六眼でそのアメをじっと見つめている

「なぁ…これさ。もしかして雪ん子から貰った?アイツの呪力が見えんだよなあ」

「雪ん子って…すみれのことかい?」

「アイツしかいないでしょ。あんな雪みたいな真っ白なやつ」

「悟、キミも十分白いけど…」

「で?これどうした?」

「悟の言うとおりすみれに貰ったんだよ」

「ふーん」

初めて呪霊を呑み込んだ後の不快感が残らない任務だった

そして私は任務を終えてアメをくれたすみれを探した。すみれは校舎の隅っこにしゃがみ込むようにしてそこに居た

「すみれ」

私がすみれの名前を呼ぶとピクンと反応してすみれが振り返る。そのすみれの手にはいつかのように小さな蠅頭が握られていた

「すみれ食べてないよ!」

ブンブンと首を振るすみれに私はおいでおいでと手招きをした

「すぐるっ」

握りしめていた蠅頭をポイッと投げたすみれは私の元に駆け寄ってくるのでそのまま私はすみれを抱き上げた

「ほぁ…たかーい」

「すみれ」

「なあに?すぐる」

「コレ、ありがとう。とても助かったよ」

「んふ」

ぎゅうと私の首に抱きついてくるすみれの頭を私は優しく撫でた

それからというものすみれは私が任務に出ると分かると何処からともなくたくさんの透明なアメを手渡してくるようになった

今、思えばすみれのあの不思議なアメがあったから私は呪霊を取り込み続けても腐らずに悟や硝子の隣に居続けることが出来たのかもしれない。アレがなかったら…って考えたくもないな

夏油傑の帰還とすみれのチカラ
すぐる??
あらー、傑のやつ浸ってるね
ウケる、写真撮ろ
すみれ
ん?
夏油のここにちゅってやって
ちゅー
おしっ撮れた
えー、ズルい!すみれ、僕にもやって

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