脱サラ呪術師ななみん
すみれが最近お気に入りのパン屋を見つけたようで頻繁に外に行きたいと強請るようになった
「さとる!」
「はいはい、パン屋ね」
サングラスを外して首元まで下げていた目隠しを上げ読んでいた資料を放り投げるとすでにすみれは夜蛾学長お手製の呪骸、オリヴァーを背負っていた
「もう…すみれってばちゃんとオリヴァーのこと動かす練習しなくちゃダメだからね」
「あとで〜」
最近までヨタヨタとすみれの後ろを着いて歩いていたオリヴァーだったがいつの間にかオリヴァーには肩紐がついていてすみれが背負える仕様に変わっていた
…まあ街中で呪骸が一人で歩き回ってたら怪しいから別に良いんだけどさ。パンダは除いてね。あれは着ぐるみですって言えば誤魔化せるけどすみれのオリヴァーはサイズ的に無理があるし
僕の自室として割り当てられてる部屋から出て歩いているとちょうど悠仁と恵が反対側から二人で肩を並べて歩いてきた
「あれ?五条先生とすみれ、出かけんの?」
「あ、ゆーじ!」
悠仁の名前を呼んですみれは悠仁の側にかけていった
「恵と悠仁も来る?すみれのお散歩」
「お散歩じゃないっ!パン買いに行くの!」
悠仁の側に駆け寄ったのに僕のお散歩発言を聞いてすぐに僕の脚に突進してくるすみれの頭に手を置いてぐしゃぐしゃと撫でたあとすみれを抱き上げた
「俺たちこれから任務なんで」
「そういえばそうだったね〜。ま、死なないように頑張ってよ」
「2級以下の弱い呪霊しか確認されてないみたいなんで大丈夫ッスよ。虎杖でも殴れば祓えます」
恵はそう言うと隣ですみれに話しかけていた悠仁のフードを引っ張った
「行くぞ、虎杖。補助監督が待ってる」
「ぐぇっ、引っ張るなって伏黒!絞まるっ!首絞まってる!!!」
「ゆーじー、めぐみー。頑張ってね〜」
「おぅ!」
すみれの声援に悠仁は声を返して、恵も声は出さなかったけど片手をヒラリと振りかえしていた
「さ、僕たちも行こっか」
伊地知の運転する車に乗ってパン屋の近くにすみれを下ろす。着いてこないのかという顔をしているすみれに僕は声をかけた
「さとる?」
「僕、ちょっと一個仕事片付けてくるからすみれ一人でパン屋行ける?」
「うん、行けるっ!」
「じゃあ好きなパン買ったらここに戻っておいで。それまでには終わらせておくからさ」
「はーい」
パタパタと駆けて行くすみれを見送って僕は伊地知に指示を出した
「じゃ、伊地知行って」
「かしこまりました」
結果を言えば僕が行く必要あった?ってくらいめちゃくちゃ簡単な任務だった
…ねぇ、なんでこの任務僕なわけ?
…五条さんにしかこなせないと上が判断しまして
…はぁ、このあと僕もう休みでいいよね?てか休みね。すみれとパン食べる約束あるから
伊地知にすみれと別れた所で下ろして貰い、近くの公園のベンチに腰掛けた。公園内にいる他の人の視線がチラチラ刺さる
「僕もやっぱりパン屋、行こっかなぁ」
ベンチから立ち上がろうと体勢を前に傾けると公園の入り口から見覚えのある人物がすみれに手を引かれて入ってきた
「さとる!」
「お、帰ってきたねって七海じゃん」
「五条さん」
「ななみ??」
すみれに手を引かれてやってきたのは僕の後輩で一級呪術師の七海だった。そういえば七海の任務場所が近かったなと思い出した
「すみれ〜。変なもの拾ってきちゃダメでしょ」
「はぁ…やはり貴方の知り合いですか」
ため息をついた七海はすみれに一言断りを入れるとすみれを抱き上げて大股でやってきた
…珍しいな。すみれが知らない人間に大人しく抱き上げられるなんて
「さとるの知ってる人のって言ってた!」
「七海だよ、脱サラ呪術師の七海建人くんでぇ〜す」
「その紹介やめてくださいっていつも言ってますが」
「だつさら?」
「脱サラしたのは事実ですが…」
「じゃあいいじゃん」
七海は僕の隣にすみれを座らせるとその隣に腰をおろした
「では改めて、五条さんの後輩で七海建人と言います。等級は一級です」
「なな、み?」
「ななみけんと、です」
「なな…ななみん!」
「あっはっは、ななみんだって!すみれ、最高!」
「やめてください」
七海のことをななみんなんてどこかのゆるきゃらかよって思って爆笑したら七海に睨まれた
「だってななちゃんはもういるから…」
すみれがいうななちゃんとは傑が面倒を見ている双子の片割れだろう。いつのまにか会って友達になってるんだから驚いたよね
「では七海もしくは建人と呼べばいいのでは?」
「ななみん!」
「変える気ないみたいだよ、諦めな。な・な・みん」
「はっ倒しますよ 」
「やれるもんならやってみな」
売り言葉に買い言葉で七海と話していると僕と七海の間に座っているすみれは買ってきたパンの入った紙袋を開けてサンドイッチを取り出していた
「なに買ってきたの?」
「イチゴとねチョコと〜あとななみんのカスクート!」
「ななみんのカスクート…ぶふっ」
「もう私は何も言いませんよ」
ふぅ…と七海はため息をついていた。そしてかけていたその特徴的なサングラスをグイッと上げて僕を見る
「話は変わりますが五条さん、この子はなんなんですか?貴方の血縁者ですか?」
「ん〜すみれ。それ以上でも以下でもないよ。強いて言うなら僕と違った意味での最強ってことかなぁ。ちなみに僕の血縁者ではないよ。そもそも人間じゃないし」
「は?」
「人間じゃないよ、すみれ」
「七海も見えたんじゃない?すみれの呪力の残穢。すみれってば蠅頭囓って傑に怒られてから祓うこと覚えたんだよねぇ。ま、蠅頭レベルのクソ雑魚しか祓えないけど」
「ええ、確かにあの店員の肩にあった残穢は白く光っていました。白い呪力の持ち主は私は今まで見たことがない」
袋をベリっと破いてモグモグとほっぺたを膨らませてイチゴのサンドイッチを食べているすみれの頭を撫でる
すみれは僕の顔を見上げてん?と首を傾げているがその口の周りは生クリームでベッタベタだった
「相変わらずすみれはクリーム系食べんのヘッタクソだなぁ」
僕がそういうと七海はスーツのポケットからハンカチを取り出してすみれの口周りを優しく拭った
「んぅ…」
「すみれさんのことはまぁ…分かりました。その様子では上にも彼女の存在をはぐらかしているのでしょう?では彼女が背負っているウサギはなんです?」
「御名答。上にはちょーっと呪力が特殊な僕の遠い親戚の身寄りのない子どもって言ってある。ちなみにウサギは夜蛾学長お手製の呪骸、リュックサックモード。名前はオリヴァー」
「ふざけてます?」
「ぜぇ〜んぜん」
「この呪骸、私を見て笑ったんです」
七海がすみれの背負っている呪骸をキッと睨みつけてもオリヴァーはすみれの背中で呑気にあくびをしていた
「七海ぃ〜
「私だって好きでナメられているワケではありません。おそらく私を見て笑ったのはオマエ見えてるな?という確認だったのでしょうね」
「ま、オリヴァーと仲良くなっておけよ。きっと、いや絶対!…たぶん?役に立つからさ」
「どっちですか」
そういって僕はベンチから立ち上がりグッと背伸びをした。パキッと骨が鳴る
「すみれ、そろそろ帰るよ。七海はどうする?一緒に高専に帰るか?」
1つ目のサンドイッチを食べ終えて2つ目を開けようとしたすみれにストップをかけた
「いえ、私は野暮用を済ませてから帰りますのでお構いなく」
「あっそ。じゃすみれ七海にバイバイして帰るよ」
「はーい。あ、ななみんっ!コレあげる」
そういうとすみれは袋から1つのパンを取り出して七海に手渡した
「ありがとうございます」
「またねっ」
「ななみん、かっこいい〜すみれ、ななみん好き」
「え?僕が一番だよね?」
「ないしょっ」
「ちょっと?!すみれ!」
「(遠目からみたらホントに父娘みたいですね)
もしもし、猪野くんですか?
ええ、そちらで落ち合いましょう」