エモさ爆発注意報
五条先生が入ったビルはまさかのエンジェルメイド喫茶という看板が掲げられたビルだった
その名もSHOW悪☆キューピッド
「いや…その…流石にこれはちょっと。五条先生でも意外すぎるんだけど」
「虎杖、五条先生の目的はコレかもしれないぞ」
「え?」
伏黒が指さしていたのは壁に貼り付けられた1枚のカラフルなチラシだった
本場フランス仕込み!
パティシエも唸る絶品パンケーキ!!
「ぜってぇーコレじゃん!!てか先生、甘いもん食い過ぎでしょ」
「五条先生、忙しい日が続くとこういうの食う頻度増えるからな」
「はぁ…。よし、謎も解けたし帰ろうぜ。すみれも帰りたいんだよな?」
俺がそう言って抱き上げていたすみれの顔を見るとすみれはその大きな紅い瞳をキラキラと輝かせていた
「まさか…」
「ゆーじ!すみれ、コレ食べるっ!」
「いやいやいやいや、さすがに俺でもココに入るのは恥ずかしすぎるって!」
「やーだー!すみれ、コレ食べるー!」
伏黒にどうしようという視線を送って見たものの伏黒はバツが悪そうにふいっと顔を反らした
どうやってすみれを納得させようか…と考えていたときその瞬間はやってきてしまった
「いらっしゃいませ!ご主人様たちっ!お嬢様もいらっしゃいませ〜」
「「え…」」
油の切れたブリキのおもちゃのように俺と伏黒がゆっくりと振り向くとニコニコと笑ったメイドさんがいた
「3名様ですね!さ、こちらへどうぞ」
「え?!いや!俺たちは違っ」
グイグイとメイドに背中を押されて俺たちはついにメイド喫茶に足を踏み入れてしまった。そして気づけば座席に案内されプラスチックと針金で出来た天使の輪っかと羽根が俺たちにはついていた
「おーい、伏黒。生きてるかー」
「…………」
声をかけても目の前で手を振っても無反応な伏黒とは対照的に天使の輪っかと羽根をつけて貰ってご機嫌なすみれがいた
「初めてのご主人様はコチラの尊みセット・エモエモAがオススメとなっておりまーす!」
「えー…そうなんだ。まー初めての時は店員さんに任せた方が安心だよな。じゃあ尊み2つ、エモさマシマシで。あと…」
「パンケーキ!すみれパンケーキ食べたいっ」
「かしこまリィンカーネーション☆」
「え!なにそのカッコいい言葉!ドイツ語とか?!」
「英語です〜」
「英語かぁー」
もう此処まで来たら開き直って楽しんだ方がいいと考えた俺は店員にノセられるがままに店員と話す
そしてふと視線を上げた先に俺たちと同じように天使の輪っかと羽根をつけた五条先生の背中が見えた。そして五条先生の前にはあのパティシエも唸るパンケーキがあった
「なぁ、伏黒。やっぱり五条先生、あのパンケーキが目当てだったみたい」
「……ああ。もう五条先生の目的も分かったし帰るぞ」
「えー、でももう注文しちゃったじゃん」
「金、払えばいいだろ」
「じゃあさ伏黒はココでパンケーキ食べれなかったってすみれが大泣きしてもいいわけ?」
俺の言葉に言葉を詰まらせた伏黒はパンケーキを今か今かと待ち望んでいるすみれに視線を向けたあとなにかを諦めたようにため息をついた
「お待たせしました〜。尊みセットのエモエモAとスペシャルパンケーキでーす」
よくわからずに頼んだ尊みセットは俗に言うオムライスのことだった
「ではお客様にはここからエモさを追加してもらいま〜す」
「エモさって追加ってどうすればいいんですかー」
「簡単です!お客様のお好きなアニメのエモいシーンをお一つどうぞ!」
こうなったら楽しまなきゃ損だ。吹っ切れた俺は店員に言われるがまま自分の思うアニメのエモいシーンを言ってみた
「あ〜それは鉄板ですね〜。チョイスがベタすぎるのでもう一声!」
意外とエモさに厳しい店員にもう一つ思いついたアニメのシーンを語った
「あ〜それはわかります!エモさマシマシですね、グッときちゃいましたからトッピング追加しちゃいましょ〜!エモ芋の追加です☆」
オムライスの上にエモ芋、フライドポテトがバラバラとかけられてワケがわからないがなんだかんだ楽しんでいる自分がいた
隣では別の店員に対応されているすみれがいる
「お嬢様は〜何が好きですか?」
「すみれ?すみれはね〜さとるがすきぃ〜!あとねすぐると〜しょーこと〜」
俺が知っている人たちの名前を小さな指を折りながら一生懸命店員に伝えているすみれに微笑ましくなるしなんならすみれを対応している店員の顔が溶けていた
「じゃ〜お嬢様が一番に好きなのはサトルさんですか?」
「う〜ん。すみれの1番はみぃ〜んな!みーんな好き!おねーちゃんも好きだよ」
「う"っ…もぅ、お嬢様が可愛すぎてエモさ爆発でしんどすぎる…。お嬢様のパンケーキには特別にゴロゴロいちごのベリーベリーソースましましでかけちゃう!」
「わーい!」
…店員は陥落していた
「さ、ご主人様っ!お料理と一緒に撮りましょ!寄って寄って〜」
店員の声にすみれに向けていた意識が戻ってくる
「え、このお店ってそういうのもあんの?」
「尊みセットなので」
「へー。俺そういうの全然わかんないけどそうなんだ!」
「じゃあお隣失礼しま〜す」
グイッと近づいてきた店員にギョッとする
「え、近くね?!俺、ちょっと恥ずいかなこういうの」
「こういう恥ずかしさを経験して大人になるんですよ〜」
「そういうもん?!」
「そういうもんです!ハイ、チェキ☆」
「ちぇ、チェキ!」
「ありがとうございま〜す」
女の人とのツーショットなんて生まれてこの方やったことのないことに俺の頬は一気に熱を持った
「あー、ヤバい。すっげぇ照れるっ!うわ…顔、あっちぃ。なんか大事なもん払った気がする、俺未成年なんだけど大丈夫?!」
「やだ〜ご主人様、初々しくてかわいい〜。そっちのご主人様も撮りましょ!」
店員が次に伏黒を指名してチェキを撮ろうとすると伏黒の口が小さくゆっくり動いた
「…俺は……いい…」
結果として伏黒はチェキを撮った。俺と店員に挟まれて。一方のすみれは楽しそうにそのメイド喫茶の一角で写真撮影会を繰り広げていた
…お嬢様ぁ〜こっち!こっちに視線をくださ〜い
…お嬢様!こっちに投げキッスお願いしますっ!
…すみれ!すみれ!こっち向いて!
…こら、貴女たち!仕事なさいっ!
…ヤバっ支配人っ!
どこのアイドルかと思ったけどすみれ、格好のせいもあってめちゃくちゃお姫様みたいになってたからな〜。なんか一人黒い人混ざってたけど
そんなすみれはお腹いっぱいになったのか店を出てから眠たそうに目を擦っていたので背負ったら秒でスヤスヤと寝息を立てた
「そういや伏黒のチェキも貰ってきたけどいる?」
「次、その冗談言ったらオマエの鼻にパプリカ詰めてやる」
「それ、単純にお前の嫌いなやつじゃ…っていや分かった。オマエの最大限の嫌がらせなのはわかった」
「…写真は燃やす。たしか近くに神社があったはずだ」
伏黒の機嫌がめちゃくちゃ悪い。どうやらメイド喫茶は伏黒にとっては苦行でしかなかったようだ
これ以上伏黒の機嫌を損ねたらそれこそ俺の命が危ない。ここはひとまず最初の目的である五条先生の話を振ってみた
「そういや、五条先生見失ったな」
「そうだな。どうでもいいが」
…マ、マズい。どうする…どうする。ヘルプっ!先生ぇ!
心の中で五条先生を呼んだ
「いや〜。それにしても先生、いつの間に店出たんだろうな」
「…………」
…ヒィっ!
「僕がどうしたって??」
「「うぁあああああ!」」
背後から現れた五条先生に俺の心臓はマジで止まりかけた
「ご、五条先生っ!いつの間に…ってあれ?なんで釘崎までいんの?」
「なんで?じゃないわよ!コノヤロウ」
伏黒だけでなく五条先生と共に現れた釘崎も機嫌がめちゃくちゃ悪かった
「アンタたちが五条の周りをウロチョロするからよ!!」
「あ、そういや五条先生って今日休みなんすか?」
「無視すんな!コラァ!!」
「いや、普通に仕事だよ。すみれに聞かなかった?」
「聞いたけど、クレープ食いながら街ん中ブラブラして…」
「僕くらいになるとね、忙しすぎて仕事しながらじゃないと街中ぶらり再発見もできないっつーの。ああ見えてやることきっちりやってんだよ」
「やることって?」
「ん?ダンジョン探し」
そういうと五条先生は俺の背中からすみれをそっと回収した
「んむぅ…さとる…」
五条先生に抱っこされたすみれはうっすらと目を開けたが五条先生の顔を見るとすり寄ってまたむにゃむにゃと口を動かして瞳を閉じた
「だんじょん??」
「君たち1年生向けにイイカンジに経験を積ませるための呪われたスポット探し、および下見」
「…はい?」
「そこのメイド喫茶の隣のビル、ネットのホラーサイトで変な噂が立ってね歴史のあるレコードショップが入ってたおかげで呪いのエピソードに信憑性が出ちゃったのがいけなかったんだよねー」
「だから五条先生、店員には目もくれずにビルしか見えない外見てたんだな」
思い出されるのはメイド喫茶での五条先生の姿。店員は五条先生の元にパンケーキを運ぶとそのあとは特になにもしていなかった。そして当の五条先生もパンケーキを食べながらずっとビルしか見えない外を眺めてた
「で!予定ではもう少し後にしよっかなーって思ってたんだけどなーんかちょうどよく1年が3人とも揃ってたからねぇ。こりゃいいや、挑戦させちゃお!って思って」
「え?…え?!」
信じられない五条先生の発言に俺は五条先生を二度見した
「噂になぞらえてちょーっと刺激してきたから活きのいい呪霊と対面できるよ!」
つまり五条先生は俺たちが後をつけているのを知っていてそして釘崎が近場にいるのを確認してこの場所に呼び出したということ
釘崎の恨みがましい表情の理由はソレだった
「行くぞ」
「ちょ、なんで急にやる気になってんだよ!伏黒」
「あ?ゲーセン行ったりメイド喫茶に行ったりするよりは呪霊祓いに行くほうが何倍もマシだ」
「え、アンタたちメイド喫茶に行ってたの?虎杖はともかく伏黒まで?」
「不可抗力だ」
「俺はともかくってなに?どゆこと?!」
「いいから行くぞ。オマエら」
ぐるぐると肩を回している伏黒はすでに戦闘モードに突入していた
「じゃあ皆、気をつけて行ってきてね。僕は揚げまんじゅう食べてるから」
「先生、まだ食うの?!」
「とっとと行くぞ」
「くっそ…くっそ。私のアメ横返せぇーーーー」
「あ、おい!待てって。伏黒!釘崎っ!」
先陣を切る伏黒にアメ横での無念を叫ぶ釘崎、その後ろを俺は追いかけた
「ん?アッハハハハ。
いいね、いいね。青春してるじゃん若人」
虎杖のポケットからヒラリと落ちた1枚の写真
その写真に五条は肩を震わせてしばらく笑っていた
「そーだ。すみれの写真、傑と硝子に送ってやろー
…既読つくのはっや!えーっともっと寄越せ
隠し持ってんのは分かってんだよって硝子怖っ
傑はなになに…私の楽園の女神だったのかって
なに?頭、打った?」